これまでの研究を継続し、昭和大学江東豊洲病院、埼玉県立がんセンター、「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』コホート・生体試料支援プラットフォーム(代表者:名古屋大学 若井建志教授)A コホートによるバイオリソース支援活動 A-5 がん早期診断マーカー精度検証のための生体試料支援」から提供された消化器疾患、泌尿器科疾患患者の血液(血清)、尿を試料としてラマン散乱光波形を取得した。使用する顕微ラマン装置の励起光源には自家蛍光の影響の少ない近赤外線レーザーを採用し、測定には自家蛍光の極めて少ない石英ガラス繊維を材料とした試料測定用チップを開発し、再現性良く安定したラマン散乱光波形を取得する技術を確立した。 本技術の一部により、国内特許を取得した(特許第7129732号:血清試料検査装置、及び血清試料の検査方法)。 そして、疾患特異性が高いと推測される複数の有望なラマンシフトを発見することができた。これらのラマンシフトにおけるラマン散乱光強度の経時的変化により、がんの早期診断のみならず、治療効果判定、再発予測にも応用できる可能性が示唆された。現在、発見されたラマンシフトの再評価を行い、真に有効なラマンシフトの絞り込みを行っている。最終的に有効と判断されたラマンシフトをもとにした生体評価アルゴリズムを完成することも目標として研究を継続している。 一方、無標識循環がん細胞の検出と生細胞のまま採取する技術の確立においては、細胞のラマン散乱光波形に細胞保存液のラマン散乱光波形が混ざることが障害となり、細胞評価がやや不安定な状況である。ラマン散乱光の発生が少ない細胞保存液の開発とともに、細胞からラマン散乱光波形を取得する際に用いるマイクロ流路やマイクロプレートなどのデバイスを最適化するなど、細胞保存液の影響を可及的に小さくするためのさらなる工夫が必要である。
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