研究実績の概要 |
スフィンゴミエリン合成酵素 (SMS)2 は、細胞膜及びゴルジ装置に局在し、セラミドとホスファチジルコリンから細胞形質膜の主成分であるスフィンゴミエリン (SM)を合成する酵素である。SMS2欠損マウスにおいて、リポ多糖刺激による肺の障害と炎症が抑制されることが報告された (Gowda et al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2011) ことから、研究代表者らはSMS2欠損マウスでは炎症が抑制されるのではないかと考え、炎症性大腸癌モデルを用いて解析した所、SMS2欠損マウスでは初期の炎症が抑制されることで大腸発癌が減少することを見出した(Ohnishi*, Hashizume* et al., FASEB J. 2017)。 そこで本研究においては、このような炎症の抑制による抗癌効果が担癌モデルマウスにおいてもみられるか否かを確かめるために、研究代表者らはSMS2欠損マウスにマウスリンパ腫細胞株EL4を皮下移植した担癌モデルを作製し、Wtと比較した所、明らかな癌増殖抑制効果を見出した。さらに、このような癌抑制効果は、SMS2欠損マウスの抗炎症効果によると仮定すると、腫瘍部位への免疫細胞浸潤量が変化するのではないかと考えられたため、腫瘍部位をフローサイトメーターにて解析した所、Wtと比較してSMS2欠損マウスでは細胞障害性T細胞 (CD8+) やヘルパーT細胞 (CD4+) の割合が多い、即ちより多く浸潤していることを見出した。 これらの結果から本研究では、癌微小環境での免疫細胞抑制機構がSMS2欠損によって克服されることを明らかにした。これは今後、SMS2阻害剤やスフィンゴ脂質を用いた免疫応答増強と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた相乗効果による癌免疫治療向上への応用につながる重要な発見である。
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