研究課題
近年、がん免疫療法が「第四の治療法」として注目されている。しかし、その治療効果は限定的であり、老化やがんの発症に伴うT細胞の不可逆的な機能不全、すなわちT細胞の疲弊化が本治療の効果を減弱させる要因の一つであると考えられている。そこで本研究課題では海外共同研究者が実証したPartial Reprogramming(部分的初期化)技術、すなわち一過性に山中4因子を発現させて細胞を部分的に初期化させる技術に着目し、老化やがんの発症に伴うT細胞の疲弊を解除する方法を明らかにし、がん免疫細胞療法の確立に有効な新規のT細胞再生技術を開発することを目的とした。令和2年度、研究計画に従い老齢4F-Tgマウスを準備し、脾臓より調整した4F(-/+)-Tgマウス由来CD8(+)T細胞に対して CD3/CD28 刺激後3日目より3日間DOX投与、2日間DOX非投与のサイクルで部分的細胞初期を施し、その細胞機能の解析を行なった。その結果、老齢4F-Tgマウスから調整したCAR-T 細胞に部分的細胞初期化を施すことで、マウスmCD19-B16F10メラノーマ細胞に対する抗腫瘍活性が有意に上昇することが確認された。一方、若齢4F-Tgマウス脾臓より調整した4F(-/+)-Tgマウス由来CD8(+)T細胞に対して部分的初期化を施し、RNAseq解析を用いて下流の分子機構の分析を進めた。その結果、これまで得られていた部分的初期化による細胞機能の変化と合致し、細胞増殖の誘導、T細胞疲弊マーカーの減弱が確認された。また既報の研究成果からT細胞の疲弊解除に重要と考えられる転写因子Xの発現上昇が確認された。これらの結果より、山中4因子の一過性発現による部分的初期化は、老化・疲弊T細胞の再生においても有効である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画どおり、老齢4F-Tgマウスを準備し、本マウスから調整したCAR-T 細胞に部分的細胞初期化を施すことで、マウスmCD19-B16F10メラノーマ細胞に対する抗腫瘍活性が有意に上昇することが確認された。さらには部分的初期化を施した若齢4F-Tgマウス由来T細胞に対して、RNAseq解析を実施し、細胞増殖の誘導、T細胞疲弊マーカーの減弱、標的候補因子Xを見出した。老齢マウスの準備に時間がかかり、さらには新型コロナウイルスの感染拡大により研究の実施に影響が出たが、以上の理由から本研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
研究計画どおり、今後、部分的細胞初期化によるT細胞疲弊解除の分子機構の解明と下流因子の同定を目的とした研究を実施していく計画である。また当初の仮説通り、部分的初期化により老齢マウス由来T細胞の細胞機能の改善の結果が得られたことから、並行してヒトT細胞に対しても応用可能な部分的細胞初期化技術の技術開発を進めていく計画である。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い本研究の実施に影響がでたことから、翌年度に一部の研究内容を実施することに変更した。
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Aging (Albany NY)
巻: 13 ページ: 4946-4961
10.18632/aging.202696.