研究課題
成人T細胞白血病(ATL)では、高頻度にHTLV-1ゲノムの欠失があることが知られる。欠失型のプロウイルスを有するATLでは、完全型と比べて治療成績が異なることが知られることから、臨床においてATL発症者のプロウイルスの欠失状況を簡便かつ鋭敏に捉えることは、治療戦略の策定にも役立つ重要な情報と考えられる。本研究では、プロウイルスゲノム欠失検出の意義および臨床検査への応用の可能性について、無症候キャリア(Asymptomatic carrier、以下AC)およびATLでのHTLV-1ゲノムの性状等の詳細な解析から評価し、効果的な臨床検査法を開発することを目的としている。これまでに同定したHTLV-1に対するプライマー・プローブセットをそれぞれ異なる色素(FAM, VIC, NED等)に設定し、multiplex化を試みた。HTLV-1陽性臨床検体で評価したところ、単独のプライマー・プローブの結果と比較しても、複数のプライマー・プローブを1チューブにミックスしたmultiplex系でも全く同じ結果を示すことが確認された。検出可能な感染細胞の割合については、HTLV-1感染細胞が約0.5%以上含まれると検出でき、ACおよびATL等でフォロー可能な感染細胞割合であることが確認された。またリアルタイムPCRでの定量結果とデジタルPCRの測定結果を比較したところ、デジタルPCRで高い精度で鋭敏に検出できることが確認できた。デジタルPCRの欠失解析の精度評価のため、完全長のプロウイルスで確認したところ、LTR: ウイルス遺伝子コード領域:pX領域について、正確に2:1:1で検出できることが確認された。現在、HTLV-1抗体陽性の臨床検体を約200例取集が完了し、これらの検体を用いてHTLV-1感染者のうちACにおけるプロウイルス欠失の実態を評価している。
2: おおむね順調に進展している
これまでにHTLV-1感染のACの検体収集が完了して、多検体の臨床検体での評価が順調に進んだところである。欠失型プロウイルス検出系について、multiplex化が可能であることが確認でき、リアルタイムPCRによる定量法に比べえても高精度にプロウイルス欠失が可能であることを確認することができた。また構築したデジタルPCR法にて高い精度で欠失解析が可能となったことで、無症候者のプロウイルスの欠失状況について興味深いデータが得られ、ATLでのプロウイルス欠失の検出の意義について考察が可能となって来た。また欠失部位の配列解析の特徴について解析が進んでいる。
本年度は、ATL検体で本研究にて開発したデジタルPCR法による高精度プロウイルス欠失解析を行う。これまでのACの欠失パターンと比較検討することで、ATLの診療における欠失解析の意義を証明する。また欠失型(タイプIおよびタイプII)のそれぞれの欠失部位を解析し、プロウイルスの欠失がATLで生じるメカニズムについて解析し、DNAのdouble-strand break後のhomologous recombinationまたはnon-homologous end joiningの頻度について明確にする。
年度末納品等にかかる支払いが、令和4年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件)
Transfusion
巻: 61 ページ: 1998~2007
10.1111/trf.16541
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