研究課題/領域番号 |
20K07676
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
南 博信 神戸大学, 医学研究科, 教授 (60450574)
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研究分担者 |
船越 洋平 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (50566966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん / 免疫関連有害事象 / B細胞 / 抗体 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、irAE発症メカニズムに「B細胞を介した抗原抗体反応が関与している」との仮説を証明するため、「irAE発症時に活性化しているB細胞1細胞から得られたB細胞受容体の遺伝子配列情報より抗体を無細胞蛋白合成系にて作成し、タンパク質アレイでその抗原を同定すること」である。まず、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与が、末梢血B細胞に与える影響をフローサイトメトリーで解析した。今年度は新たに抗CTLA-4抗体を投与した5名の患者から検体を得て、合計17名の患者(抗CTLA-4抗体及び抗PD-1抗体併用療法11名、抗CTLA-4抗体単独療法 1名、抗PD-1抗体単独療法 5名)のICI投与前後の末梢血B細胞の動態を経時的に解析した。その結果、Grade 3のirAEを発症した6名(抗CTLA-4抗体及び抗PD-1抗体併用療法5名、抗PD-1抗体単独療法 1名)で、活性化B細胞(CD27+/IgD-およびCD21Low分画)がICI投与後に増加することを見出した。 これらの中でも、特に著名な活性化B細胞の増加とirAE肝炎を発症した症例に注目しirAE発症時に、活性化(増加)しているB細胞クローンのユニークなB細胞受容体(BCR)遺伝子配列を同定するためBCR遺伝子のレパトア解析を実施した。これまでの解析より、活性化B細胞の分画としてCD21Low分画B細胞を対象とし、mRNAよりBCR遺伝子(IgG 重鎖)を増幅し次世代シーケンサーで配列を解析した。ユニーク配列(V、D、JおよびCDR3が同一配列)を、コピー数順でランキングしirAEの前後で増加したユニーク配列を選定した。次に、irAE発症時に保存した末梢血単核球(PBMC)中にあるCD21Low分画B細胞のシングルセル解析を行い、選定した配列を持つB細胞(1細胞)を単離しIgG 重鎖のみならず軽鎖の遺伝子配列を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述の症例について、ICI投与前(Day-1)、ICI投与後1週間(Day7)、irAE診断時(Day21)に保存していたCD21Low分画B細胞(セルソータにて分離)より抽出したmRNAに対し、それぞれBCRレパートリー解析を行った。各検体に対して約20万リードのBCRを解析しコピー数順でランキングし、「ICI投与前にリード数が少なく(0かそれに近い値)、irAEの発症日に向けて増加するクローン配列」かつ「irAE発症時に500リード以上(全体の0.2%)となるクローン配列」をirAE肝炎の発症に関係する抗体候補のBCR配列と考え20配列を選定した。もっとも有力な候補配列(CDR3のアミノ酸配列:CARGYNGLLYW)は、ICI投与前のリード数は0であったが、ICI投与1週間後に5に上昇、irAE発症時には4162と全体の1.5%までに上昇し、巨大なクローン集団を形成しておりirAE肝炎との関連が期待された。 CD21Low分画B細胞集団全体のmRNAを用いたBCRレパトア解析では、IgG 重鎖を解析したが対応する軽鎖の情報は得られなかった。そこで、重鎖/軽鎖のペア情報を得るためにCD21Low分画B細胞のシングルセル解析を行った。irAE肝炎の発症直後(Day22)に細胞保存液(セルバンカー)にて保存したPBMCを解凍し、セルソータを用いてCD21Low分画B細胞をシングルセルとして単離した。10×106個のPBMCを処理し408個のCD21Low分画B細胞を単離し、それぞれBCR解析を行った。しかし、単離された408個のCD21Low分画B細胞に、前述の20配列をもつ細胞は同定出来なかった。2021年度内に、選定したユニーク配列を持つB細胞(1細胞)を同定するには至らなかったため、進捗状況をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
irAE発症時に拡大しているユニーク配列のリード数はBCR全体のリード数の最大1.5%にまで拡大しており、シングルセル解析にて目的の配列をもつB細胞が得られることが期待されたが単離することが出来なかった。この原因として、BCR/mRNAのリード数の割合と細胞数の割合が異なることが考えられる。リード数割合と細胞数割合が同程度であれば408個の解析より6個程度の候補細胞が得られると予測されたが得られていない。活性化B細胞1細胞が非活性化細胞より大量のBCR/mRNAを産生するなら、候補細胞を得るためにより多くの細胞を解析する必要がある。加えて、今回シングルセル解析に用いたPBMC中のCD21Low分画B細胞が予測より少なく、当初1000個程度の解析を予定していたが408個の解析に留まったことも原因の一つと考える。今後の研究では、より多くのCD21Low分画B細胞のシングルセル解析を行うために、凍結保存細胞の融解や染色作業を改善しセルソーターの設定を再調整することで1000細胞以上のシングルセル解析を行う。また、今回はirAE肝炎の症例に着目したが、他のirAE症例の解析も進める。 今までに、ICI投与3か月後にirAE/重症筋無力症と診断された症例があるが、本例では診断時に血清アセチルコリンレセプター抗体が陽性であった。一方、irAEの原因となる抗原抗体反応がICIの投与に関連し、いつから始まるのかは明らかではない。本症例も、ICI投与開始前から経時的にCD21Low分画B細胞のmRNA、PBMC、血清を保存している。今後、本研究で計画されていた実験手法(BCRレパトア解析、シングルセル解析、無細胞蛋白合成による抗体作製)を用いて、irAE/重症筋無力症と抗原抗反応の詳細な関係を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
irAE症例について、CD21Low分画B細胞より抽出したmRNAを用いて約20万リードのBCRを解析しレパートリー解析を行い20配列を選定したが、単離したCD21Low分画B細胞408個からははこの20配列をもつ細胞は同定出来なかった。そのため抗体作成は次年度に行うことになるため次年度への予算を繰り越した。 今年度はIgG 重鎖のみを解析したが、次年度は重鎖/軽鎖のペア情報を得るためにCD21Low分画B細胞のシングルセル解析を行ったり細胞数を増やす予定である。具体的には、凍結保存細胞の融解や染色作業を改善しセルソーターの設定を再調整することで1000細胞以上のシングルセル解析を行う。また、今回はirAE肝炎の症例に着目したが、重症筋無力症など他のirAE症例のについても、BCRレパトア解析、シングルセル解析、無細胞蛋白合成による抗体作製を行う。そのために予算を使用する計画である。
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