研究課題/領域番号 |
20K07680
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研究機関 | 愛媛県立医療技術大学 |
研究代表者 |
山田 武司 愛媛県立医療技術大学, 保健科学部, 教授 (40333554)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | T細胞 / 抗腫瘍活性 / エピジェネティック制御 |
研究実績の概要 |
近年、化学療法などでは治療困難な難治性腫瘍に対し、増殖腫瘍を効果的に排除するためのT細胞免疫療法の開発が積極的に進められている。最近の研究から我々は、体外に取り出し培養したT細胞において、増殖培養で生じるグルタミン代謝の亢進がエピジェネティック変化をひきおこし、疲弊など機能低下の結果、抗腫瘍活性を低下させることを見いだしている。さらに、そのメカニズムとして、グルタミン代謝産物であるα-ケトグルタル酸がヒストンH3K27の脱メチル化酵素を活性化することなどを一部解明している。これらの知見を踏まえ、本年度の研究では培養によるT細胞機能低下の問題を解決するため、ヒストンH3K27脱メチル化酵素を阻害する薬剤GSK-J4を用いたマウスCD8 T細胞の培養実験を行い、エピジェネティック調節によるT細胞機能への影響を解析した。まず、フローサイトメーターを用いたCD8 T細胞分化の解析から、ヒストン脱メチル化酵素に対する阻害剤の添加培養により、長期免疫を示すCD44とCD62Lを高発現するメモリーT細胞への分化促進が観察された。また、リアルタイムPCRを用いた遺伝子発現の解析により、エフェクター分化を示すBlimp-1の遺伝子の発現が低下し、メモリー分化を示すTcf-1の遺伝子やLef-1の遺伝子の発現上昇も観察された。以上の結果から、薬剤によるヒストンH3K27の脱メチル化酵素の阻害により、これまでの培養法に比べ、長期免疫に働くメモリー分化が促進することが分かった。さらに、阻害剤の濃度を変化させた解析から、CD8 T細胞のメモリー分化に最適な濃度も明らかにした。今後は、実際にヒストンH3K27脱メチル化酵素阻害剤に抗腫瘍活性を上昇させる効果があるかについて、腫瘍特異的CD8 T細胞を用いることで様々な培養条件を検討しながら、担がんマウスにおける抗腫瘍活性の比較解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染拡大の影響で一時研究を中断したため、当初の研究計画にやや遅れが生じた。具体的には、初年度に実験を予定していた担がんマウスモデルを用いた抗腫瘍解析に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえ、CD8 T細胞の培養条件を変えながら担がんマウスを用いた抗腫瘍活性の比較を行うことで、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤の添加する濃度や期間など抗腫瘍活性において最適となる培養条件を明らかにする。また、ヒストン脱メチル化酵素阻害剤だけでなく、グルタミン代謝阻害剤についても同様の結果が得られるか検討することで、グルタミン代謝経路の阻害を介した抗腫瘍活性の増強メカニズムに関してより包括的な解析を進める。さらに、薬剤処理により生じる副作用の可能性についても検討することで、より安全な手法の開発につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で参加を予定した学会がすべて中止となったことや、予定されていた実験にやや遅れが生じたため、繰越し金が生じた。次年度の学会参加費用に充てるとともに遅れが生じた実験のための物品購入費に当てる。
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