研究課題
悪性中皮腫は現時点で有効な治療法がない難治性・希少がんである。CD26/DPP4分子はヒトT細胞と、悪性中皮腫を含む様々ながん細胞の両方が持つタンパク質であり、非常に多様な機能があり、ヒトT細胞の免疫応答の制御においても重要な役割を果たしている。がん細胞は様々なメカニズムでがん細胞の周囲に浸潤してきた免疫細胞の機能を抑制し、攻撃から逃れている。本研究では、CD26分子が悪性中皮腫における腫瘍免疫の負の制御に関与している可能性を明らかにすることを目的とし、悪性中皮腫患者の末梢血および腫瘍の近位に存在する胸水中のT細胞の、CD26の発現パターンとエフェクター機能、免疫チェックポイント分子の発現との関係性、さらにはstageや生存日数などの臨床情報との関係性を明らかにする。昨年度、悪性中皮腫患者10例の末梢血と胸水中T細胞の解析を行い、悪性中皮腫患者の末梢血T細胞は活性化したエフェクター細胞に分化している割合が、健常者と比較して非常に高いことを見出した。そのため、今年度は比較として、代表的な全身性の自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)患者30例の末梢血T細胞のCD26の発現パターンとエフェクター機能、免疫チェックポイント分子の発現の解析を行った。申請者のグループは現在、抗CD26抗体の悪性中皮腫に対する第II相臨床試験を終えた段階にあり、T細胞のCD26の発現パターンやフェノタイプと疾患との関係性を明らかにすることで、本抗体の抗腫瘍作用機序の更なる解明や有効性予測バイオマーカーの確立にも繋がることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に悪性中皮腫患者10例の胸水中のT細胞を解析した結果、CD4 T細胞とCD8 T細胞それぞれで少なくとも3通りのCD26の発現パターンに分けることができ、また、免疫チェックポイント分子の発現パターンに関しても非常に多様性に富んでいることが示唆された。また、悪性中皮腫患者の末梢血T細胞は非常に高い割合で活性化したエフェクター細胞に分化していることが明らかになり、比較対象としてSLE患者の末梢血T細胞の解析を行った。SLE患者の末梢血T細胞も健常者と比較してエフェクター細胞に分化している割合が非常に高かった。免疫チェックポイント分子は免疫細胞の活性化状態が慢性的に持続しないために誘導される分子群であり、エフェクターT細胞では発現していることが多いが、悪性中皮腫患者では免疫チェックポイント分子の中で2B4(CD244)とTIGITの発現が特に高かったのに対し、SLE患者ではTIGITの陽性率は2B4(CD244)ほど高くないことが示された。また、悪性中皮腫患者もSLE患者もエフェクターT細胞の割合を考慮すると末梢血T細胞のPD-1の陽性率は低かったが、一方で、悪性中皮腫患者の胸水中T細胞のPD-1発現陽性率は非常に高いことが示された。胸水中T細胞の特徴と臨床情報との関連の解析は非常に興味深いが、そのためには更に症例を追加する必要がある。
解析する悪性中皮腫の症例数を更に追加して、胸水中T細胞のCD26の発現パターン及び免疫チェックポイント分子の発現パターンと臨床情報との関係性を明らかにする。悪性中皮腫患者とSLE患者とで末梢血T細胞上のTIGITの陽性率が異なる原因について、解析したSLE患者は未治療初発の患者だけでなくステロイドや免疫抑制剤を使用中の患者も含まれるため、それらの臨床情報と免疫チェックポイント分子の発現との関係性についても追究したい。SLEは発熱や全身倦怠感、皮膚の発疹に加えて、重症例では腎炎や中枢神経炎、肺炎など多様な臓器に障害をともなう疾患であり、その病状の違いの原因が解明されていない。SLEに関しても解析する症例数を更に追加して、末梢血T細胞のCD26発現を含む詳細なフェノタイプの解析がSLEの病態解明に少しでも繋がることを期待する。また、悪性中皮腫患者の胸水中T細胞はPD-1、BTLA、CD39などの免疫チェックポイント分子の発現が増加していることが示された。in vitroの実験からCD26分子はBTLAの発現誘導に関与している可能性があるため、胸水中T細胞のBTLAの発現が高い検体からBTLA陽性T細胞をセルソーターで分取し、DNAマイクロアレイ解析を行うことで、CD26分子を介したBTLAの発現誘導メカニズム、CD26分子の下流シグナルやBTLAに発現誘導に重要な転写因子を明らかにしたいと考えており、今年度から進めているところである。
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Journal of Allergy and Clinical Immunology
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