研究実績の概要 |
悪性中皮腫は現時点で有効な治療法がない難治性・希少がんである。CD26/DPP4分子はヒトT細胞と様々ながん細胞の両方が持つタンパク質で、非常に多様な機能があり、ヒトT細胞の免疫応答の制御においても重要な役割を果たしている。 CD26は悪性中皮腫細胞だけでなくT細胞にも発現するが、がん患者の腫瘍周囲のT細胞の詳細なフェノタイプ解析を行うには様々な制約があり難しい。そこで本研究では、悪性中皮腫の胸水中T細胞が悪性中皮腫周囲(近傍)に存在するT細胞に近い性質を持っていることを期待し、解析を行った。悪性中皮腫患者の末梢血38例と胸水15例のT細胞の解析を行い、悪性中皮腫患者の末梢血T細胞は活性化したエフェクター細胞の割合が非常に高いことを見出した。全身性エリテマトーデス(SLE)患者57例についても解析を行った結果、悪性中皮腫患者とSLE患者の末梢血T細胞のフェノタイプは類似した点が多く、CD4, CD8両T細胞でCD26陰性の割合が明白に増加し、そのCD26陰性サブセットはPerforinやGranzyme Bを高発現するエフェクター細胞であることが示された。また、胸水中T細胞の方が末梢血T細胞よりもCD26の陽性割合は高く、さらに、CD26の発現パターンからCD4, CD8 両T細胞ともに3グループに分類できることを見出した。胸水中T細胞ではPerforinの発現に著明な低下が認められ、悪性中皮腫の近傍に存在することによる免疫抑制の影響であることが予想される。 悪性中皮腫患者の胸水中T細胞のCD26の発現パターンやフェノタイプと、患者の臨床情報や抗CD26抗体に対する応答性・抗腫瘍効果との関係性を明らかにすることで、研究代表者のグループが開発したヒト化抗CD26抗体の抗腫瘍作用機序の更なる解明や有効性予測バイオマーカーの確立にも繋がることが期待できる。
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