研究課題/領域番号 |
20K07684
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
新井 正美 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (20232027)
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研究分担者 |
柿沼 志津子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所, 副所長(任常) (20392219)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナンセンス変異 / リードスルー療法 / マクロライド系抗生剤 / 家族性大腸腺腫症 / 遺伝性腫瘍 / APC遺伝子 |
研究実績の概要 |
アミノ配糖体及びマクロライド系抗生剤は、細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し抗菌作用を発揮する抗生剤で、現在ではマイコプラズマ肺炎やMAC症、Chlamydia trachomatis尿道炎および子宮頸管炎など、日常臨床で幅広く使用されている。その中の幾つかの抗生剤は、タンパク質合成の翻訳過程においてリボソームRNAの構造を変化させコドンとアンチコドンの相互作用の精度を低下させることが知られている。その結果、ナンセンス変異により生じる未成熟終止コドンのリードスルー(読み過ごし)が起こり、タンパク質合成阻害が解除される。このようなリードスルー作用を有する抗生剤は、既にナンセンス変異が起因のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として臨床応用され、一部の国では条件付き承認となっている。従ってナンセンス変異を有する遺伝性腫瘍に対してもがん予防効果が期待出来るが、その科学的知見は乏しい。共同研究者らは、これまでにナンセンス変異を有するヒト家族性大腸腺腫症のモデルマウスであるC57BL/6J 雄ApcMin/+マウスと野生型雌C3H/HeJマウスとのハイブリットマウスであるC3B6F1 ApcMin/+マウスが、ヒト大腸癌の初期病変から浸潤を伴う進行癌までの進行過程を病理組織学的に解析可能なモデルマウスを用いてリードスルー作用を有するマクロライド系抗生剤のがん予防効果を検証した。また、消化管は放射線感受性臓器のひとつであることより、被ばく後の発がんリスク低減化法としてのリードスルー療法の有用性についても検討した。 R4年度は、マクロライド系抗生物質の効果として、リードスルー効果による、完全長のApcタンパク生成の促進、がんの数の減少、および腺腫から腫瘍への悪性化の抑制を明らかにした。また、高濃度の薬剤投与は、腸内細菌叢を減少させ、リードスルー効果を低下させることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
作出した雌C3B6F1ApcMin/+マウスを用いて、リードスルー誘起剤であるマクロライド系抗生剤を低濃度、中濃度及び高濃度の3濃度をそれぞれ3週齢から連続飲水投与する群と無処置群(対照群)の4群について解析を継続した。 本研究により、マクロライド系抗生物質の効果として、リードスルー効果を確認し、病理診断、Apc、β-カテニン及びCyclin D1などの免疫組織化学染色の結果より、がんの数の減少と腺腫から腫瘍への悪性化の抑制を明らかにした。また、高濃度の薬剤投与は、腸内細菌叢を減少させ、腫瘍の抑制効果は限定的になることも明らかにした。これらの結果を論文投稿し、現在リバイス中である。
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今後の研究の推進方策 |
放射線誘発消化管腫瘍に対するマクロライド系抗生剤の予防実験に関しては、自然発症腫瘍実験と同様に病理組織標本を作製して腺腫、腺癌(浸潤癌)の診断を行い、腫瘍部におけるApc、β-catenin及びCyclin D1の免疫組織化学染色を行いリードスルー効果の評価を行う。
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