がん細胞は、解糖系の亢進やグルタミン代謝経路の亢進と言った、正常細胞とは異なる代謝に依存して生存・増殖しており、こういった異常ながん代謝を標的とした治療法の開発が進められている。しかし、がん細胞の代謝経路は可塑性が高く、特定の経路の阻害時に、代替経路の活性化等の適応応答によって生存が可能となることも知られている。従って、がん細胞の代謝を多角的に理解・制御することは特異性および確度の高い治療法開発にとって不可欠である。本研究では、グルタミン代謝阻害と、固形がんで広く用いられる抗がん剤シスプラチンによる細胞選択的な合成致死という独自の知見について、分子機序の解明及び治療応用へのproof of concept取得を目指す。 2022年度は、前年度までに見出した、GLS阻害剤によるシスプラチン感受性化の細胞選択性について引き続き検討を進めた。具体的には、10種のがん種で構成されるがん細胞パネルJFCR39を用いて、GLS阻害剤とシスプラチンとの合成致死効果について検討を進めた。高感受性を示した6細胞株と低感受性であった7細胞株について、遺伝子発現や遺伝子依存性の比較を行った。その結果、高感受性株では、mTORC関連経路やOXPHOS関連経路の遺伝子発現が定常状態において高く、高感受性株では、OXPHOS経路に対して高依存性を示す傾向を見出した。また、GLS阻害剤によるシスプラチンの感受性化メカニズムに関与する代謝物として、αケトグルタル酸(αKG)を見出した。実際に、GLS阻害剤によるストレス応答経路の活性化、DNA二本鎖切断の蓄積およびシスプラチン感受性化が、細胞透過性のαKG誘導体の添加によってキャンセルされることが明らかとなった。以上のことから、グルタミン代謝阻害時には、αKGの低下を介したISRの活性化によりシスプラチン高感受性化が誘導されることが明らかとなった。
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