研究課題/領域番号 |
20K07690
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
増田 万里 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (70435717)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高精度医療 / 薬剤耐性 / リン酸化タンパク質 / 逆相タンパクアレイ / コンパニオンマーカー / ホルマリン固定・パラフィン包埋組織(FFPE) |
研究実績の概要 |
個々のがん患者に適切な薬剤を見つけ出す「がんゲノム高精度医療」が普及してきているが、ゲノム高精度医療が先行している米国では、がんゲノム高精度医療により適切な治療が見つかり恩恵を受けることができるがん患者は現状では10%に満たないことが報告されている。多くの分子標的治療薬の標的となるキナーゼや下流シグナルのタンパクの活性化(リン酸化)を、我々が開発した逆相リン酸化タンパクアレイ(RPPA)法により正確に把握できれば、分子標的治療薬による適切な治療戦略の提示や薬剤に対する初回耐性及び治療後の獲得耐性の克服に貢献できることが期待される。本研究課題では、一般的に病理診断で用いられるホルマリン固定・パラフィン包埋組織(FFPE)を用いた逆相リン酸化タンパクアレイ(FFPE-RPPA)法の技術開発及び改善を進め、今後のがんゲノム高精度医療を補強できる有用な技術基盤の確立を目指している。本年度は細胞株のペレットを用いたFFPEブロックを作成し、タンパク質抽出方法、FFPE-RPPA法のアレイの作製法、シグナル検出法の最適化、適切なコントロールの検討を主に行った。更に、同試料をウエスタンブロットで解析し、相関解析によって検証を行った。一方、これまで、定量解析はβ-アクチン、チューブリン、総タンパク量により標準化を行い、その後比較解析を行ってきた。一方、米国MD Anderson Cancer Center で開発された、定量化の方法を参考に、シグナル定量化を効率よく行う為のソフトウエアを開発し、現在、他の解析法との比較が進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、病理診断で一般的に用いられるホルマリン固定・パラフィン包埋組織(FFPE)を用いた逆相リン酸化タンパクアレイ(FFPE-RPPA)法の確立を目指し、FFPE 細胞ペレットを用いた検討と最適化を主に行った。また、コロナ禍で参加を予定していた学会参加費用・旅費及び人件費謝金の一部について必要性が無くなったため、その余剰分と前倒し費用によって逆相タンパクアレイのデータを効率的に定量化するデータ解析ソフトウエアの作成を行うことができた。これまでRやPerlを用い解析を行ってきたが、解析手法の習得にはある程度の時間を要していた。本ソフトウエアの開発によって、解析に要する時間や解析法トレーニングの時間を今後大きく短縮し、更に、大量データを処理するうえでの人為的ミスを回避できることも期待される。一方、当初の計画目標であったFFPE 細胞 pellet を用いたRPPAアレイの作製、シグナル検出法の最適化、及び適切なコントロール検討はほぼ終了した。タンパク抽出法については、海外の研究室で行われている方法を改善し、定量においてより正確性の高い結果が得られるタンパク抽出法を検討中である。具体的には、標的とするタンパク質の種類や実験の目的(例えば、核タンパクを中心に解析を行いたいなどの場合を想定)によって組織溶解バッファーの変更が必要であることが確認され、それぞれの方法について最適化及び標準作業手順書(SOP)の作成が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降は、マウス/ゼノグラフトモデルより摘出した腫瘍と上記のFFPE 細胞ペレットを用いて、RPPAによるシグナルプロファイルを取得し、組織と細胞ペレットの結果に相関が得られるかを検討する。また、上記の作成されたFFPE 細胞ペレットブロックを4C保存し、半年・1年・2年の保存後にタンパク質を抽出し、幾つかのリン酸化タンパクをRPPA法で定量し、FFPEブロックにおけるリン酸化タンパクの安定性を検討し、適切な保存期間と保存条件を決定する予定である。一方、確立したFFPE-RPPA法により我々が先行研究において中皮腫治療薬候補のコンパニオンマーカーとして同定した分子及び分子群の発現をヒト中皮腫臨床検体FFPE切片を用いて検出・定量化する予定であったが、IHC(免疫染色法)及びウエスタン法を用いた検証では、現在のところRPPA法に使用可能な抗体が見つかっておらず、他の検出法も検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による政府の非常事態宣言により、一部の勤務がキャンセルとなり人件費が予定より少なくなったため余剰が出た
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