研究課題/領域番号 |
20K07692
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 信 東北大学, 大学病院, 講師 (20431570)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TP53 signature / 予後因子 |
研究実績の概要 |
本研究は、乳がんの予後および治療効果予測因子であるTP53 signatureの他がん腫への応用性を検討するため、乳癌以外の固形がんを対象として、①TP53 signatureを他のがん腫へ応用し、予後や治療効果の予測が可能かを検討する。②TP53 signatureの遺伝子修復機構との関連性を検討し、PARP阻害剤の治療効果と関連する可能性について検討を行う。③TP53 signatureと腫瘍内の免疫環境との関連性を検討し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果と関連する可能性について検討を行う。 TCGAより大腸腺癌(355例)、肺腺癌(451例)、副腎皮質癌(60例)、胃腺癌(278例)、子宮内膜癌(222例)、膠芽腫(80例)、白血病(62例)、腎乳頭細胞癌(122例)および腎明細胞癌(165例)の遺伝子発現および予後データを取得し、TP53 signatureと予後との関連性を検討した。その結果、大腸腺癌、肺腺癌、副腎皮質癌ではTP53 signatureと予後が有意に関連した一方、その他のがんではTP53 signatureと予後との間に関連性を認めなかった。これらの結果を受け、TP53遺伝子変異が遺伝子発現におよぼす影響はがん種毎に異なることが推察されたため、各がん腫毎にTP53遺伝子変異の有無によって有意に発現差を認める遺伝子セットを作成したところ、乳癌のTP53 signatureの遺伝子セットとの一致率は数%であり、TP53遺伝子変異によって発現レベルの変化が起こる遺伝子はがん種毎に異なることが示唆された。 現在、TP53遺伝子変異が細胞内に及ぼす影響について、がん種毎での違いの有無を検討するため、TP53の影響を強く受ける細胞周期関連遺伝子、遺伝子修復機構遺伝子の発現への影響について検討を進めている。また免疫関連遺伝子への影響についても検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はTP53 signatureと予後との関係について、9がん種に拡大し、検討を行った。その結果、予想に反して多くのがんでは乳癌と異なる結果が得られた。一方で、乳癌と同様にTP53 signatureと予後が強く関連するがんも存在し、TP53遺伝子変異の影響ががん種によって異なることが明らかとなった。これらの結果から、TP53遺伝子変異の細胞内への影響について、いくつかのサブグループに分類することが可能ではないかと考えられた。このため、現在、TP53遺伝子変異の有無と遺伝子発現変化のパターンの関連性の解析を行い、TP53遺伝子変異ががん細胞におよぼす影響について分類する研究を進めている。当初の想定とは異なる結果を得たため、新たな仮説を立案し、その検証のための研究を進めている。研究対象としたがんの種類および症例数は当初の想定以上を確保して、緻密に研究を進めることができているため、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究から、TP53遺伝子変異ががん細胞のおよぼす影響は一律ではなく、がん種毎に異なる可能性が示唆され、いくつかのサブグループに分類可能であることが明らかとなってきた。2022年度は各がんに対するTP53遺伝子変異の影響を規定する因子の探索を行い、なぜTP53遺伝子変異の影響ががん種毎に異なるのかについて検討を進めていく。特に細胞周期遺伝子への影響が強いことを示すデータが得られているため、細胞周期関連遺伝子に対する影響について詳細に検討を進めていく予定である。 また、当初の予定の通り、遺伝子修復機構やがん免疫とTP53遺伝子変異および遺伝子発現プロファイル(TP53 signature)との関連性の検討を行い、PARP阻害薬や免疫チェックポイント阻害剤の治療効果と関連するかについても検討を進めていく。
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