本研究は、乳がんの予後および治療効果予測因子であるTP53 signature (sig)の他がん腫への応用性を検討するため、乳癌以外の固形がんを対象として、①TP53 sigを他のがん腫へ応用し、予後や治療効果の予測が可能かを検討する。②TP53 sigの遺伝子修復機構との関連性を検討し、PARP阻害剤の治療効果と関連する可能性について検討を行う。③TP53 sigは腫瘍内の免疫環境と関連性を検討し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果と関連する可能性について検討を行う。 TCGAより大腸腺癌、肺腺癌等の9がん種1795例について、TP53遺伝子変異、遺伝子発現および予後データを取得し、TP53 sigと予後との関連性を検討した。その結果、大腸腺癌、肺腺癌、副腎皮質癌ではTP53 sigと予後が有意に関連した一方、その他のがんではTP53 sigと予後との間に関連性を認めなかった。また、TP53遺伝子変異が遺伝子発現におよぼす影響はがん種毎に異なることを示唆するデータが得られた。このため、TCGAより21がん種8173例の遺伝子発現および予後データを取得し、TP53遺伝子変異の有無がp53経路の遺伝子発現へ及ぼす影響を調べたところ、主に細胞周期関連遺伝子の発現プロファイルの違いから、癌は2つのクラスターに分類されることが示された。 73例の乳癌を対象として、TP53 sigと遺伝子修復関連遺伝子の発現レベルの関連性を検討した結果、野生型群と比較して、変異型群において、BRCA2、CHEK1、RAD54Lの発現レベルが高い一方で、ATF1、OLA1、ATM1の発現レベルが低かった。また、免疫関連遺伝子に関しては、大多数の遺伝子で野生型群よりも変異型群で発現レベルが高かった。以上より、TP53 sigと遺伝子修復機構および免疫関連遺伝子の発現レベルが強く関連することが示唆された。
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