研究課題
HTLV-1感染者のリスク評価佐賀大学医学部附属病院のHTLV-1専門外来を受診したHTLV-1感染者の血液検体、フローサイトメーターを用いた解析を行った。これまでの報告からCD4陽性Tリンパ球の中でCADM1を発現する細胞割合が高いHTLV-1感染者はHTLV-1感染細胞が多く、成人T細胞白血病・リンパ腫の発症(ATL)リスクが高いことが知られている。したがって、HTLV-1感染者のCADM1発現細胞割合、臨床検査値などのリスト作成を行い、HTLV-1感染細胞分離を行うHTLV-1感染者の抽出、経時的変化の検討を行った。今年度、ATLを発症したHTLV-1感染者、ATLの病期が進展した症例は認めていない。HTLV-1感染細胞と非感染細胞の分離前述のリストから、研究の説明・同意が得られたCADM1発現細胞割合の高いHTLV-1感染者の血液検体からフィコール分離液を用いて末梢血単核球(PBMC)の分離を行った。PBMCの一部を保存し、残りは磁気ビーズ、CD4陽性細胞分離キットを用いてPBMCからCD4陽性細胞集団を単離した。更に、CD4陽性細胞集団の中で、CADM1発現の高いHTLV-1感染細胞と、CADM1発現の低いHTLV-1非感染細胞に磁気ビーズ、CADM1抗体を用いて分離を行った。分離後はフローサイトメーターで目的細胞が得られていることを確認した。データベースを用いた解析GEOデータベースに登録されている、HTLV-1感染者検体の発現データを抽出。ATL未発症者と発症者の比較を行い、ATL発症者で特異的に発現が亢進または低下している遺伝子の抽出を行った。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの蔓延の影響を受けたため、当初の予定よりやや遅れている。緊急事態宣言の発出による行動制限のため、研究の実施やHTLV-1感染者の病院への来院が制限された点、マルチプレックスRT-PCRを行うのに必要な試薬等は新型コロナウイルス検査が優先されたため試薬等の確保が困難であった点が大きく影響した。緊急事態宣言解除後は研究の実施やHTLV-1感染者の病院への来院数も以前の状態に戻ったため、今後は予定に沿って研究の遂行が可能と考えられる。また、PCRに必要な試薬等も年度末から確保できるようになっている。次年度以降も新型コロナの影響を受ける可能性があるため、準備可能な間に試薬等を確保し、検体の保存を行う。フローサイトメーターを用いたHTLV-1感染者のリスク評価を200名に行い、その中からATL発症リスクの高いHTLV-1感染者:4名、くすぶり型ATL:4名、慢性型ATL:3名のHTLV-1感染細胞と非感染細胞の分離を行い、-80℃に保存した。今後はこれらの症例の経時的な検体保存を行い、ATL発症、ATL進展に関わる遺伝子の解析に用いる。GEOデータベースを用いた解析から、ATL発症者で未発症者に比べ2倍以上に亢進した遺伝子を抽出し、その中にはこれまでに報告されているCADM1, CD70が含まれていた。これまでに行ったフローサイトメーターを用いたHTLV-1感染者のリスク評価については、臨床検査データや臨床経過を集約して統計解析を行い、論文原稿を作成した。また、リスク評価を行った症例を用いた論文(Watanabe T et al, Blood, 2020)を共著者として報告した。
HTLV-1感染者のリスク評価、HTLV-1感染細胞と非感染細胞の分離今後もHTLV-1感染者のリスク評価を行い、HTLV-1発症リスク、ATL進展リスクの高いHTLV-1感染者の抽出、モニタリングを行う。臨床医とこまめに情報交換を行い、経時的なHTLV-1感染者のリスク評価をすることでATL発症の兆候や、ATL病期の進展を捉える。HTLV-1感染者の検体は貴重なため、今後の研究のためにも可能な限り検体の保存を行う。これまでに分離したHTLV-1感染、HTLV-1非感染細胞からRNA抽出、cDNA作製を行う。cDNAを用いて、データベース解析から抽出した遺伝子の発現についてqPCR法で検証を行う。標的遺伝子の絞り込み、マルチプレックスPCR解析データベースからより多くの発現解析データを抽出し、それらを組み合わせて解析することでHTLV-1感染細胞特異的な遺伝子発現パターンを見出し、標的遺伝子の絞り込みを行う。絞り込んだ標的遺伝子の発現についてこれまでに分離を行った細胞を用い、qRT-PCRにて評価を行う。内在性コントロールとしてβ-actinやGAPDHなどを用い、同一チューブ内で標的遺伝子と内在性コントロールの発現評価が効率よく行えるプライマー、プローブ設計、蛍光色素の組み合わせなどの検討を行う。これまでに行ったフローサイトメーターを用いたHTLV-1感染者のリスク評価についての論文投稿、本研究の経過について学会で発表を行う。
新型コロナウイルスの蔓延により緊急事態宣言が発出されたことで行動制限が生じ、研究の実施やHTLV-1感染者の病院への来院が制限された点、マルチプレックスRT-PCRを行うのに必要な試薬等は新型コロナウイルス検査が優先されたため試薬等の確保が困難であった点が大きく影響した。また、予定していた学術集会が中止になり、参加できなかったため次年度使用額が生じた。今後も新型コロナウイルスの感染状況により影響を受ける可能性が高いため、準備可能な間に試薬等を確保して研究を実施する。web開催などで行われる学術集会への参加や論文投稿を行うなどの変更を行い研究を進める。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Blood
巻: 136(7) ページ: 871-884
10.1182/blood.2019003084