研究課題/領域番号 |
20K07701
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
福田 実 長崎大学, 病院(医学系), 准教授 (50388930)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血管内皮増殖因子阻害薬 / 免疫チェックポイント阻害薬 / 分子標的薬 |
研究実績の概要 |
血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬はいずれも高額な治療である。VEGF血中/胸水中濃度を測定し抗腫瘍効果の予測、血中バイオマーカーを測定し免疫チェックポイント阻害薬抗腫瘍効果の予測、薬物血中/髄液濃度を測定し薬物髄液移行率および脳転移抗腫瘍効果の予測、を行うことにより治療を行わない方が良いと思われる症例を探索的に研究している。既治療非小細胞肺癌に対するラムシルマブとドセタキセル併用は1回に約43万円の治療を3週毎に繰り返す高額な治療であるが効果の少ない場合がある。2021年度までに15例において検体採取が行われている。解析が行われた7例の結果はVEGF-D中央値310(119-457)mg/ml, Tie2中央値188(129-327), 全症例のORR40%、PFS中央値(VEGF低値群/高値群) 85日/105.5日、PFS中央値(Tie2低値群/高値群) 85日/105.5日。VEGF、Tie2共に高値群でPFSが良好な傾向にあった。まだサンプル数及び解析数を増やしていく。肺腺癌に特異的に発現する抗原と肺扁平上皮癌に発現する抗原はがん細胞に特異的に発現し、それに対する宿主も免疫反応を起こす。これら抗原に対する患者血清中の抗体を有する肺癌患者は3分の2へ免疫チェックポイント阻害剤が奏効するのに対し、抗体を持たない患者では約2割の奏効にとどまるため抗体陰性の場合には患者の状態によっては治療を行わない方がよいと思われた。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異は肺腺癌の40%に認め癌治療の分子標的として注目され、オシメルチニブやゲフィチニブなどの阻害薬が認可されている。血液中の本薬と活性代謝産物の薬剤濃度を検討した結果では濃度が高い場合でも低い場合でも有意な効果の差を認めず、腫瘍の遺伝子型によって効果の低い場合があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌治療は2002年より分子標的治療薬、2005年より抗VEGF阻害薬、2015年より免疫チェックポイント阻害薬が発売された。生存期間延長の一方で高額薬剤費も問題になり医療保険財政への影響が心配された。選択肢が増えたことで高齢や体力のない患者も治療を止めなくなっている。あらかじめ効果が乏しいと分かれば円滑にサポーティブケアへ移行できると考え本研究を開始している。VEGF血中/胸水中濃度等を測定しVEGF阻害薬と化学療法併用療法の抗腫瘍効果の予測をみる研究ではこの1年間でサンプル数が増えて、解析も開始することができた。治療効果のない症例を予測してきているが引き続き3年目とサンプルを増やしながら継続していく。免疫チェックポイント阻害薬の研究では1年間である程度順調なサンプル採取と結果がでてきている。EGFR-TKIの薬物血中濃度、ctDNAを測定する研究では血液中の薬剤と活性代謝産物の薬剤濃度を検討した結果で濃度が高い場合でも低い場合でも効果の有意な差は認めなかったが、活性代謝産物の血中濃度が低いと効果は劣る傾向にあった。また腫瘍の遺伝子変異の性状によって効果の低い場合があった。EGFR-TKIの治療にも単独で治療する場合、化学療法との併用、VEGF阻害剤などとの併用もでてきており、この場合は他の薬剤や併用療法などの治療を選択してもよいかもしれない。全体としては2年目までにおおむね順調に進展している。いずれも適正な医療資源の活用と医療費抑制を目標として薬物療法の効果予測研究を続けていく。
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今後の研究の推進方策 |
VEGF-D, Tie-2ら治療前VEGFバイオマーカーの血中/胸水中濃度等を測定しVEGF阻害薬と化学療法併用療法の抗腫瘍効果の予測をみる研究では最後の1年間でサンプル数を増やすと同時に検体解析をまとめていく。学会発表を引き続き行い、論文発表を目指す。VEGR阻害薬を上乗せする意義の少ない患者群を探索的に検討する。血中および悪性胸水中のVEGFレベルは治療前に測定し、血中VEGFレベルは化学療法第2サイクル目にも測定する。悪性胸水を伴う非小細胞肺癌にVEGF阻害薬ベバシズマブが有効だが、既治療例へのVEGF阻害薬ラムシルマブはまだ安全性も有効性も不明であり、これを対象とした研究も行っていく。免疫チェックポイント阻害薬の研究でも次の1年間で引き続きサンプル採取を行うが治療効果が期待される症例には免疫療法が続いているうちに経過観察の採血を行い治療の中止時期について検討できるようにしていく。介入的なことはできないが例えば抗腫瘍効果が高 くて画像上完全寛解に近い場合にバイオマーカーが陰性になれば治療を中止できる可能性はある。EGFR-TKIの効果を測定する研究では血液中の薬剤と活性代謝産物の薬剤濃度を検討した結果で濃度が高い場合でも低い場合でも効果の有意な差は認めなかったが、活性代謝産物の血中濃度が低いと効果は劣る傾向にあった。 また腫瘍の遺伝子変異の性状によって効果の低い場合があった。薬剤活性代謝産物の薬物血中濃度と効果について3年目にさらに検討を行っていく。いずれも適正な医療資源の活用と医療費抑制を目標として薬物療法の効果予測研究を続けている。
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