研究課題/領域番号 |
20K07708
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
丸山 玲緒 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんエピゲノムプロジェクト, プロジェクトリーダー (60607985)
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研究分担者 |
高橋 洋子 公益財団法人がん研究会, 有明病院 乳腺外科, 副医長 (70383809)
中太 智義 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんエピゲノムプロジェクト, 研究員 (10364770)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳がん / シングルセル解析 / エピゲノム / 腫瘍内不均一性 |
研究実績の概要 |
ddSEQ(BioRad)を用いて16症例の乳がん手術検体のscATAC-seq解析を実施し、ArchRを用いてそのデータを詳細に解析した。クロマチンアクセシビリティプロファイルによるクラスタリング解析により、16症例からの12,452細胞を25の細胞種に分類することができた。各種マーカー遺伝子の推定発現量や転写因子モチーフ解析から、がん細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、白血球、T細胞、B細胞などの細胞種を同定した。がん細胞においては、乳がんで重要なエストロゲン受容体(ER)シグナル経路の不均一性が明らかとなった。さらに、単一のER陽性Luminal乳がん症例由来の検体において、ER結合モチーフへのアクセシビリティが異なる2つの細胞集団が存在することが明らかとなった。そのうち、ER結合モチーフのアクセシビリティが低下している細胞集団では、乳がんの内分泌抵抗性に関与している転写因子GRHL2結合モチーフのアクセシビリティが上昇していることが明らかとなった。さらに、TCGAデータベースとの統合解析を行い、GRHL2結合モチーフを持つ遺伝子転写制御領域(cis-regulatory element)の活性は、内分泌抵抗性、転移、治療予後不良に関わる遺伝子領域の活性と相関していることが示された。これらのことより、腫瘍内のがん細胞のエピゲノム(シストローム)不均一性が、乳がん患者の内分泌抵抗性や予後不良と関連する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際に乳がん検体を用いてscATAC-seq解析を実施できること、それにより細胞種の明確な分類やがん細胞の多様性の記述が可能であること、さらには腫瘍内不均一性が予後と関連しうることを、これまでに見出すことができた。またより多くの検体でのscATAC-seq解析やscRNA-seq解析が終了し、現在データを解析中であり、当初の計画通り順調に研究を遂行できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、より多くの検体でscATAC-seq解析を実施することで、がんの多様性に関するより深い情報を取得したい。またプロトコールを工夫することで、新鮮凍結検体のscATAC-seq解析を実施できるようにしたい。それが可能となれば、がん研にアーカイブされた臨床情報と紐づいた検体を解析することが可能となる。またこれまで得られたscATAC-seqデータを用いたbulk ATAC-seqデータのdeconvolutionにも調整したい。これらにより、多様な検体を多数解析することができるようになり、生物学的・臨床的に有意義な情報を得ることができるようになると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究所内にあるライブラリ作成試薬やシークエンス試薬を利用することができたため、物品費の支出を抑えることができた。その余剰分を、次年度に継続して行う単一細胞解析に利用する計画である。
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