本研究は、物体が観察角度に依らずに脳内で表現される神経機構を電気生理学的実験から明らかにし、機械学習を用いて三次元物体認識のための人工知能システムを構築することを目的とする。1つの物体の特徴を変化させて4つの類似した物体を作製し、それぞれ観察角度を30°間隔で90°まで変化させた合計16枚の画像を1つの物体セットとした。同じ観察角度で弁別経験した物体に対し、30-60°程度まで観察角度に依らずに物体を弁別できるようになることがニホンザルを用いた行動実験から報告されている。本年度は、物体視の最終段にある下側頭葉皮質前半部(TE野)と、TE野の前段階に位置するTEO野の神経細胞活動を対象とし、サポートベクトルマシンを用いて物体の脳内表現を調べた。各物体画像に対する細胞の応答から細胞集団の応答ベクトルを生成した。同じ観察角度の物体への応答でサポートベクトルマシンの識別子をトレーニングし、30°、60°、90°異なる物体への応答でテストした。物体1~4のうち1つの物体をラベル1、その他の物体をラベル0として解析した。時間窓を100msとし、20msずつ移動させて解析した。TE野の神経細胞集団において観察角度が30°異なる物体に対し物体の弁別率が、ラベルをランダムに物体画像に割り当てた場合よりも有意に大きな時間窓があり、TE野の細胞集団において30°程度の観察角度許容性を持って物体が表現されていることが明らかになった。一方、TEO野の細胞集団においては有意差が認められず、観察角度許容性はTE野において表現される視覚機能であることが明らかになった。
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