研究課題/領域番号 |
20K07721
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田邊 宏樹 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (20414021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会脳科学 / コミュニケーション / 相互作用 / ハイパースキャニング / ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本年度は,申請書の計画にしたがって,まずfMRI,NIRS,EEGそれぞれの装置から得られるデータの性質の再チェックを行った。その後,計画当初に予定していた,二人が見つめあった状態と,物体への特徴の共同注意課題が全ての装置のデータ取得に適応可能か検討した。これについては理論的な検討に加え実際に実験を行ってデータをみながら検討する予定であったが,コロナ禍でそれは難しくハイパースキャン実験を実施することはできなかった。物体への注意課題は以前fMRIを用いた実験を行ったが,この実験ではお互い口頭でのやりとりを行っていたため,これがEEG計測の際に大きなノイズとなることが予想される。視線移動も同じくEEG計測ではノイズ源となるため,いかに視線移動を少なくコミュニケーションを取るかがポイントとなる。そこで,選択肢を視覚的に提示し,また共同注意の答え合わせも視覚的にできないか,視野角をどの程度にすれば視線移動を少なくできるか,現在その検討を行っているところである。 一方階層ネットワークダイナミクスの解析法についての検討は,手持ちのデータでも可能な部分があるため,本年度はそこからはじめることにした。手持ちのfMRIによる二者脳活動同時計測データを用い,まずは二者の関係が定常(課題遂行により変化しない)と仮定した際の,個人脳と二者間の脳活動の相関を求めるためのプラットフォームの作成を試みた。この際,個人の脳領域をどのように分割するか,各領域のデータをどのように要約するか,が問題となるため,さまざまな脳分割テンプレートとデータ要約方法を試し,プラットフォームとなるプログラムをほぼ完成させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,研究開始早々にコロナ禍に見舞われ,ヒトを対象とした実験の実施が非常に難しかった。我々が行う実験は,二人の被験者に同時に来てもらい,EEGやNIRSの場合は装置を装着,fMRIの場合は隣接する二台のMRI装置に入ってもらう必要があり,さらに実験者も複数人で行わなければならず,他の心理実験や脳機能イメージング実験よりも実施のハードルが高い。この結果,被験者募集もままならず,実験者を被験者とするプレリミナリーなハイパースキャン実験を行うにも人員不足により叶わなかった。そのため,研究の方針を少し変更し,すでに手元にある過去の実験課題と実験データを用い,新たな実験系とデータ解析手法の開発に着手した。なおEEG実験ではプレリミナリーな課題による一人の被験者を対象とした実験は行うことができたため,そのデータの取得と解析を行った。ハイパースキャンの二者同時計測実験課題については,机上での作成はほぼ完成したため,それをプログラム化し試すところまで来ている。コロナ禍の状況次第ではあるが,来年度はハイパースキャンの実験実施にこぎ着けたいと考えている。またデータ解析手法についても,ベースとなるプラットフォームの作成はほぼ完成した。来年度は,この解析手法の更なるブラッシュアップを行い,さらにダイナミクスを扱えるよう展開していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の情勢がどのようになるか,また大学の方針によっても実験実施のタイミングを現時点で決定することは難しいが,今年度は何とかfMRI, NIRS, EEGによるハイパースキャン実験を実施し,研究の遅れを取り戻したいと考えている。ただし,通常通りの実験が困難であることも考え,同時に以下の対策を取ることにする。 まず,データの性質が似ているNIRSとfMRIについては,すでにデータのあるfMRIのものを用いて新たなネットワークダイナミクスを扱える解析手法の開発に着手する。今年度はベースとなるfMRIデータ用のプラットフォームをほぼ完成させることができたので,これをさらに発展させる予定である。さらに,NIRSデータの解析によく用いられている二者の脳活動のウェーブレット相関解析についても再検討を行い,有用性があると判断した場合には,このプラットフォームに組み込むことを考えている。一方EEGデータに関しては以前プレリミナリーに取った数組の見つめあいのデータしか手元にない。しかしこれを使うことは可能なので,まずはこのデータを用いてEEGデータの特性をもう一度吟味し,どのような形で統一的な解析ができるか検討する。 このような準備を並行して進めることで,この研究課題の目的である広範囲のハイパースキャン研究に適応可能な実験デザインの策定とネットワークダイナミクスの観点を取り入れた新たな解析手法の完成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
二者の脳活動同時計測実験を実施することができなかったため,準備していた被験者謝金も支払いがなくなり,それに合わせハイパースキャンNIRSとEEGのデータ取得と解析のために購入を考えていたソフトウェアとハードウェアの購入も先送りになってしまった。さらにコロナ禍により学会も全てオンライン開催となり,共同研究者との会合も対面ではできなくなってしまったことから,旅費分として確保していた予算に余剰が生じた。 先に述べたように,次年度使用が生じた理由は主に実験の遅延によるものと旅費関係である。今後の研究の推進方策のところでも述べたように,何とかfMRI, NIRS, EEGによるハイパースキャン実験を実施し,研究の遅れを取り戻したいと考えている。新しい大学院生も入り,ハイパースキャンEEG実験の目処もついた。fMRI実験についても共同研究先である生理研の小池助教とも打合せをし,実験ができる可能性が高い。そのため今年度使用予定であった被験者謝金に加え,ソフトウェアとハードウェアの購入を次年度に行う予定である。加えて,EEG計測の際の視線の様子を調べる必要が出てきたため,簡易型視線計測装置の購入を考えている。さらに,昨年はコロナ対策による大学業務の増加から難しかった学会等へも積極的に参加する予定である。また投稿準備中の論文の英文校正にも使用する予定である。
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