本年度は,一昨年度に提出した研究の推進方策にしたがって,昨年度開発した新たなネットワークダイナミクスを扱える手法を用いた既存のハイパースキャンMRIデータの解析をおこなった。具体的には,健常者同士のペアと高機能自閉スペクトラム症(ASD)者と健常成人のペアが,それぞれ共同注意課題をおこなった際の脳活動データを用い,両ペアの脳活動の同期にどのような違いがあるかを検討した。解析の結果,健常成人ペアでは,これまでの解析で見られていた二者の右下前頭回の脳活動の同期のみならず,背内側前頭前野の同期,内側前頭前野と視覚野の同期,視覚野の異なる領域間の同期などが見られた。一方,ASD者と健常者のペアでは,視覚野同士の同期は見られたものの,その他の部位の同期はほとんど見られなかった。さらに両者ペアを直接比較した結果では,健常者ペアでは前頭・側頭・頭頂領域間の同期が見られたのに対し,ASD者と健常者のペアでは視覚野の一部のみに健常ペアと比べて高い同期が見られるのみであった。これらの結果は,二者のやりとりにおいて,健常者とASD者では異なる神経基盤があることを示すものであり,現在これらを纏めた論文を作成中である。一方,新たなハイパースキャン実験は,コロナ禍の影響,装置の都合やトラブルなどによりかなり遅れてしまい,脳波を用いた特徴への共同注意実験が終了したのみになってしまった。これについては現在得られたデータを解析中であり,結果がまとまり次第論文化する予定である。
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