研究課題/領域番号 |
20K07724
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 淳子 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (30570808)
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研究分担者 |
西井 淳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00242040)
村井 礼 山口大学, 国際総合科学部, 准教授 (30279111)
呉本 尭 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (40294657)
美津島 大 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70264603)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海馬CA1 / エピソード / 超高頻度発火 / リップル様イベント |
研究実績の概要 |
エピソード経験前に、ムスカリン受容体拮抗薬であるscopolamine (2mg/kg ip)を投与しておくと、エピソード経験中の超高頻度発火の発生が減少することが解った。特に、拘束ストレスによる超高頻度発火の抑制が顕著に認められた。これまでの実験で、拘束ストレス経験直後から、海馬CA1ニューロンに超高頻度発火が高頻度で発生し、その後リップル様イベントの発生増加とその波形形状の多様化が起きることがわかっている。本研究で、scopolamineを投与しておくと、それらが一部阻止されることが解った。リップル様イベントの形成とシナプス可塑性には深い関与があるため、超高頻度発火とシナプス可塑性との因果関係も示唆された。さらに、行動学実験を行ったところ、scopolamineによって、エピソード経験の記憶形成が減弱することが明らかとなった。シナプス可塑性と記憶形成は強く関連があり、行動実験からも、超高頻度発火とシナプス可塑性の関連が強く示された。一方、これまでの解析で、リップル様イベントの波形形状が、エピソード特異的であることが解っている。さらに、この波形形状について動的時間伸縮法を用いて、持続時間が異なる個々のリップル様イベントの類似性を調べたところ、各エピソード後には、それそれ異なる類似度変化を認めた。以上の結果からも、リップル様イベントがエピソード経験情報を符号化していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の目的は、エピソード経験開始直後から頻繁に発生する海馬CA1ニューロン超高頻度発火が、その後に起きる海馬CA1神経イベント(リップル様イベント・シナプス可塑性変化)や記憶形成と関連があることを明らかにすることである。今年度は、薬理学的手法を用いて、超高頻度発火が抑制されることと、それにより、その後に起きるリップル様イベントの変化が阻止されることが解った。さらに、行動学的実験からは、超高頻度発火が記憶形成に重要であるという結果も得た。以上のことから、超高頻度発火がエピソード経験の記憶形成のトリガとなっていることが推測された。さらに、リップル様イベントの波形解析によって、第二の研究目的である、エピソード情報がこのイベントによって符号化されていることを示唆する結果が得られている。今後、リップル様イベントによる符号化様式を解明するため、リップル様イベントとして発生しているスパイクをイベント信号として抽出し、その詳細を解読する予定にしているが、今年度はそのイベント信号の自動抽出を可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのscopolamineを用いた薬理学的手法だけでなく、電気生理学的手法のシステムを構築して海馬CA1超高頻度発火を特異的に抑制し、リップル様イベントの発生と波形形状と抑制性・興奮性シナプ評価する。また、リップル様イベントによるエピソード符号化様式を明らかにするため、解析システムを構築し、エピソード特異的な発火パターンの検出とその解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は電気生理学的に超高頻度発火を抑制する目的で、刺激・記録電極含む電気生理学的実験器具の購入費を計上していたが、電気刺激のトリガとなる信号の検討に時間を要しているために未使用分が生じた。この未使用額については、令和3年度の研究費と合わせて電気生理学的実験に関わる物品の購入費と合わせて使用する。さらに、本年度はscopolamineを使用することで、超高頻度発火とシナプス可塑性の関係が示唆された。この結果により、当初予定していた電気生理学的超高頻度発火の抑制だけでなく薬理学的手法による抑制によって起きる変化の解明も重要な課題となった。これらの実験は次年度に持ち越して追加実験を行う予定にしている。
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