研究課題/領域番号 |
20K07734
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
澁木 克栄 新潟大学, 脳研究所, 非常勤講師 (40146163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 認知機能障害 / 統合失調症 / 視覚的残像 / 遅延見本合わせテスト |
研究実績の概要 |
統合失調症の認知機能障害は患者の社会復帰を妨げる大きな要因であるが、認知症の物忘れのような一見して判る症状を伴わないことが多い。令和5年度は60歳女性の治療抵抗性統合失調症患者の視覚的認知機能について解析した。この患者は幻覚妄想、特に幻聴と連合弛緩が目立ち、精神病院に13年間入院(他院転院期間を含む)しているが、退院の目途が立っていない。しかし、認知症のスクリーニングテストであるHDS-Rでは29点/30点満点、MMSE では30点/30点満点で、認知機能障害を検出できなかった。そこで本患者の視覚的認知機能を、タブレットPCを用いた遅延見本合わせテストを用いて評価した。タブレットPCを用いると、ランダムに生成された多数の課題の平均点を解析できるので、定量性が増す。また課題の各ステップの時間を精密に制御できるというメリットがある。各課題では、まず5000枚の中からランダムに選択された画像が被検者に10秒間~0.1秒間提示された。次に、簡単な計算課題を10秒間被検者にやってもらい、正答できた計算課題数を遂行機能の指標として用いた。最後に、被検者に5つの異なる画像の中から最初に提示した画像を選択するよう求め、正しい選択ができた試行のパーセンテージを、視覚的認知機能を示す指標として用いた。本患者は見本図形の提示時間が10秒間、5秒間のときは100%の正答率を示した。しかし0.5秒、0.1秒と短くなるにつれ、正答率が下がった。0.5秒、0.1秒の正答率は正常高齢者より明らかに低かった。図形提示が一瞬である場合、我々は図形の視覚的感覚記憶(残像)に基づいて図形の形状を認知する。従って本患者では視覚的残像が障害されていると思われる。本患者の視覚的残像の障害は、統合失調症におけるワーキングメモリの障害として解釈できるのかも知れない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
医療用ゲームによる皮質盲の解析を行い、更にこの技術を応用して認知症の記憶障害、統合失調症の認知機能障害の解析を行い、一定の成果を挙げつつある。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で研究活動や国内・海外での学会活動は制限を受け、進捗状況は予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は平成31年3月に新潟大学脳研究所システム脳生理学分野教授を定年退職した後に脳研究所非常勤講師として研究を行っている。定年後に臨床医としての訓練を開始し、現在は新潟大学精神科専門研修プログラムの精神科専攻医4年目である。本研究は定年前の経験を生かして医療用ゲームを開発し、定年後に遭遇する様々な臨床的疾患の研究に応用することを目指して立案された。既に認知症や統合失調症などの疾患において成果は出ているが、今後も現在の専門領域を活用し、解析対象を広げて研究を遂行していきたい。残念ながら新型コロナウイルス感染症による遅れもあるので、最終年度には補助事業期間延長を申請する予定であった。しかし新潟大学の方針で、定年退職後5年以上経過した段階で、非常勤講師の期間延長を認めない方針となった。従って、令和6年度が当初の予定通り最終年度となるので、可能な限り研究を遂行して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新潟大学精神科専門研修プログラムの精神科専攻医としての研修に予想より多くの時間が必要となり、また新型コロナウイルス感染症の影響で、研究活動や国内や海外での学会活動が大幅に制限された結果、次年度使用額が生じた。令和6年度は最終年度となるので、可能な限り研究の遅れを取り戻したい。
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