研究課題/領域番号 |
20K07735
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
尾崎 智也 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (40710588)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 神経軸索損傷 / コンドロイチン硫酸 / 脊髄損傷治療薬 / ドラッグリポジショニング |
研究実績の概要 |
本研究は、未だ有効な治療法のない脊髄損傷に対して、糖鎖結合分子が治療薬となり得るか評価するものである。中枢神経系の神経軸索は、傷つくと先端部にdystrophic endballと呼ばれる異常形態をとり、伸長不全に陥る。この損傷軸索に表れる表現型の原因分子は糖鎖コンドロイチン硫酸(CS)であることが知られている。これまでに申請者らは、dystrophic endballを損傷後の神経軸索が陥る病態であると考え、dystrophic endballについて詳細に解析を行い、その形成にはオートファジーの中断が関与することを見出した(Sakamoto* Ozaki* et al., Nat. Chem. Biol. 2019 *equal contribution)。損傷した軸索についての理解が進む中で、CSの阻害効果を抑え、軸索の再生や再伸長を促すことに関する研究は多くなく、脊髄損傷など損傷軸索に対する治療法にむすび付いた研究はまだない。 本研究では、既存薬でありCS鎖に結合するペプチド(特許申請準備のため、CSBPとする)を使い、CSPGの軸索伸長阻害効果を抑えることで、軸索再伸長を促し脊髄損傷を治療できるかどうかを吟味している。これまでに、dystrophic endballを培養できるin vitroモデルを使い、CSBPの効果を確認している。さらに、dystrophic endballの表現型としてみられる、オートファゴソームの蓄積が、CSBP処理により解消されるかどうか検証した。その結果、CSBP 処理した1時間あるいは3時間後の軸索末端部は成長円錐様の形態をとり、内部のオートファゴソームの密度は、コントロールとしたdystrophic endballのものより有意に小さくなった。 in vivoの治療実験では、これまでにCSBPがマウス脊髄損傷を治療する可能性を見出している。受傷後7日後のからの治療開始でも治療効果が得られる予備データが取れている。さらに本研究では、受傷後7日から、3回のみの投与で治療効果があるか解析している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、CSBPはdystrophic endballをレスキューすることはin vitroでは確認できている。dystrophic endballを培養できるin vitroモデルを用いて、CS濃度勾配上に培養したdystrophic endballにCSBPを処理した。それにより、dystrophic endballが解除され、CS濃度勾配を乗り越える軸索の数がコントロールに比べて有意に増加した。0.1μg/mlのCSBPではレスキュー効果は観察されず、1μg/mlのCSBPを処理したサンプルではレスキュー効果が認められた。また、蛍光標識したCSBPは、コートしたCSと同様の分布を示した。これは、蛍光付加CSBPがコートされたCSに結合したことを意味する。 CSBPは、dystrophic endball の軸索伸長を強く促進した。この時、軸索の末端の形態は成長円錐のようになり、内部のオートファゴソームの蓄積も解消されることを観察している。また、CSBP とCS 鎖との結合の特徴について、生化学的な解析も行っている。これまでにCSBP がCS 鎖に結合することは確認できている。 さらに、in vivoのマウスを用いた治療実験では、受傷後1日目あるいは7日目からのCSBP投与は治療効果を示し、脊髄損傷により著しく低下した後肢運動機能を改善する結果が得られている。興味深いことに受傷後7日目から3回のみのCSBP投与が治療効果を示す傾向を観察しており、この治療条件について、今後サンプル数を増やして検証していく。 このように、CSBP処理による軸索末端部でのオートファゴソーム蓄積の解消は、申請者の先行研究でのCSが引き起こすオートファゴソーム蓄積という現象を支持する結果であり、治療実験においても3回投与で治療効果が表れる可能性を見出しており、順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、in vivoでの受傷後7日目から3回のみのCSBP投与が治療効果を示す傾向が認められるため、この治療条件についてはサンプル数を増やして検証していく。そして、組織学的な解析に取り掛かる。これまでに得られている脊髄を損傷したマウスの後肢運動機能のCSBP投与による改善が、運動神経の軸索再生に起因するものかどうかを検証する。 脊髄損傷後、マウスにCSBP投与することで、脊髄組織内において実際に軸索の再生や再伸長が起こるかどうか検証していく。マウス脳にある運動野にビオチン化されたデキストランを注入する。こうすることで、デキストランは容易にアビジンを用いて検出できるため、皮質脊髄路の神経線維を可視化できる。凍結切片を作成、脊髄の損傷部位付近の神経線維を可視化し観察、計測して、評価する。軸索の末端をうまく捉えることができれば、オートファゴソームの蓄積についても評価したい。組織学的な軸索再生の解析は、組織透明化技術を駆使することも考えており、神経トレーサーを脳から注入し、標識した脊髄組織内の神経線維を透明化処理後に検出することに挑戦したい。 また、CSBPが実際に損傷脊髄のCSPGが蓄積した部位に、届いているかは不明である。そこで、CSBPがマウス脊損部位に実際に届いているか確かめる。まずCSBPを、薬効を損なうことなく蛍光付加する。薬効は、in vitroでdystrophic endballを培養し、レスキュー実験を行い、評価する。薬効損失がないことを確認した上で、脊髄損傷し受傷後7日目のマウスに麻酔を施し、体温を維持しながら、2光子顕微鏡に設置する。尾静脈より蛍光標識CSBPを投与した後、損傷部位を観察する。標識CSBPのシグナルを観察できれば、CSBPが静脈投与で脊髄損傷部に届いたと言える。上記したことについて、今後は本実験を遂行していく。
|