統合失調症における主要な標的となる感覚-運動ループの制御に焦点を当て、健常者を対象とした研究を実施した。統合失調症を始めとする精神疾患や認知機能障害では前頭葉の機能異常に注目が集まっている。一方で、感覚野に入った情報の一部は上縦束を介して前頭葉へ移行し、前頭葉における運動企画に寄与すると言われる。これらのことから、運動と認知機能には前頭葉を介した干渉作用が生まれる可能性を考えた。立位バランス制御と認知課題を健常者に対して与え、前頭葉の機能をfNIRSおよび脳波計によって調べた結果、難易度のより高い運動制御によって前頭葉の活動が上昇し、特定の脳波成分の発生が観察された。さらにこの時に認知課題の成績の向上が認められた。以上のことから、健常者では感覚入力に基づいた運動制御が、前頭葉の神経活動を介して認知機能に干渉することが明らかになった。統合失調症患者では感覚-運動ループの異常のみでなく、認知機能障害も認められる。前年度には実験動物を用いた研究から、統合失調症モデル動物では成体海馬神経新生が障害されており、統合失調症における認知機能障害には異なる機構も存在する可能性が示唆された。
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