研究課題/領域番号 |
20K07739
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
金井 克光 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (80214427)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アルツハイマー病 / 脳毛細血管内皮細胞 / LRP1 / KIF13B / 動脈硬化 / 高脂血症 / エストロゲン / 中性脂肪 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病予防のための新しい知識基盤を得るため、血管内皮細胞のLRP1-hDLG1-KIF13B-utrophin-カベオラ複合体によるβアミロイドの脳から血中への排出機構の解明を目指した。 脳血管内皮細胞は培養すると単離脳毛細血管と比べてLRP1量が5%程度に減少し、脳毛細血管では可能だった複合体タンパク間の結合状態の確認ができなかった。他方脳毛細血管は表面の大部分がグリア細胞などで覆われていたため、これらを毛細血管の形態を維持したまま内皮細胞から除去することを試みたができず、研究の転換を図った。 女性は閉経後に血中中性脂肪上昇しアルツハイマー病のリスク因子の動脈硬化になりやすい。エストロゲンは性周期の調節以外にもエネルギー代謝、特に脂質代謝に関与することが知られており、申請者の研究室の前任者が発見した胃壁細胞から分泌されるエストロゲン(胃エストロゲン)によるアルツハイマー病のリスク低減の可能性を検討した。 まず胃エストロゲン分泌調節機序を調べた。壁細胞がエストロゲン合成に必要なエネルギーを脂肪から得ること、血中中性脂肪の上昇に伴い胃依存的に血中エストロゲンが上昇することを見出し、胃が直接血中中性脂肪レベルに合わせてエストロゲンを分泌することを明らかにした。 エストロゲンは摂食行動、脂肪合成、脂肪の血中への放出を抑制し、脂肪の蓄積・消費を促進することが知られている。申請者は今回の結果と合わせて「血中中性脂肪値が上昇すると胃からのエストロゲン分泌が増加し、中性脂肪の摂取、合成、血中への供給を抑え、血中中性脂肪の消費や脂肪組織への回収を促すことで血中中性脂肪値を下げる」というモデルを提唱した。このモデルを用いると、閉経により血中エストロゲンが低下すると体が血中中性脂肪が低下したと判断し、血中中性脂肪を上げることでアルツハイマー病のリスクが増大すると説明できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アルツハイマー病の予防・治療に資する基礎的知識基盤の確立を目指すための方法として、研究開始当初の「内皮細胞のβアミロイドの血中への排出メカニズム」の解明は技術的理由により遂行できなかったが、エストロゲンが「血中中性脂肪値が上昇すると胃からのエストロゲンが分泌され、血中中性脂肪値を下げる」という100年前に発見された「糖代謝におけるインスリン」と対をなす脂質代謝上の概念を提唱したことで、いままで漠然と議論されていたエストロゲンの関わる病態、とりわけ閉経後の更年期障害やそれに含まれるアルツハイマー病リスク増加の理解に全く新しい切り口を与えることができたと考える。 なお本研究は Stomach secretes estrogen in response to the blood triglyceride levels Takao Ito, Yuta Yamamoto, Naoko Yamagishi, Yoshimitsu Kanai Communications Biology 4(1) 2021年12月7日 で発表済みである。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和4年度は、胃エストロゲンの分泌に影響する物質の探索を行い、アルツハマー病予防、治療の可能性を調べる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ事情により令和2年度に研究推進に支障が出てた持ち越し分の一部が令和4年度に持ち越しとなった。令和3年度は研究が順調に進み、「血中中性脂肪レベルに対応して胃エストロゲンが分泌されることで血中中性脂肪レベルを下げる」というモデルを提唱でき、論文発表にたどり着けた。令和4年度はさまざまなホルモンによる胃エストロゲン分泌制御機構の解明を行うため、本年度の助成金と合わせて、10種類以上のホルモン、動物、エストロゲン等の測定キットの購入に充てる予定である。
|