研究課題
ロングリードシークエンサーは1万塩基以上の長いDNAやRNAの塩基配列を連続して読むことができるシークエンサーである。本研究は、ロングリードシークエンサーであるナノポアシークエンサーを用いて、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)伸長リピートの原因遺伝子変異である伸長CCTG反復配列やその周辺のゲノム構造異常を解明することを目的としている。従来型のシークエンサーは長い反復配列の検出に弱く、ヒトゲノムに100万以上存在すると言われる単純反復配列を解析することは難しいと考えられており、ロングリードシークエンサーを用いたゲノム解析が期待されている。今年度は、ロングリードからゲノム網羅的に単純反復配列を解析するツールtandem-genotypesを用いて、リードのエラーを考慮しながらアリルごとに分けてコンセンサス配列を作成し、リピート内シークエンスを決定した。また、これをもう一度ゲノムにマッピングして、tandem-genotypesでリピートのサイズを推定するという方法を可能とした。ゲノム構造異常を検出するツールdnarrangeを用いて、染色体破砕と呼ばれる非常に複雑なゲノム構造異常をもつ患者ゲノムをロングリードシークエンサーで解析し、ゲノム構造の変化を再構築することにより、ゲノム構造異常を検討した。更に本邦DM2患者の伸長CCTG配列の創始者効果について、本邦DM2患者のハプロタイプは共通しており、欧米DM2患者と起源が異なることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、ロングリードからゲノム網羅的に単純反復配列を解析するツールtandem-genotypesと、ロングリードからゲノム構造異常を検出するツールdnarrangeを活用し、実際の疾患ゲノム解析に役立てることが可能であることを確認した。この手法をさらに応用し、患者個々のゲノム内の反復配列を比較解析することで、疾患表現型に影響する可能性のあるCCTGリピート長境界や挿入配列を検討・同定することができた。また、本研究の目的の一つである本邦DM2に共通する共通ハプロタイプを同定することができた。おおむね順調に進んでいると言える。
最近、ロングリードシークエンサーの技術革新や周辺解析技術の開発が進んでおり、シークエンサーから出されるデータの精度が上がっていることを受けて、さらに臨床応用が進むことが期待される。今後の推進方針として、1年度・2年度で確立した解析手法やリピート内シークエンスデータを用いて、引き続きロングリードシークエンサーによる探索するとともに、今年度で明らかになった本邦DM2患者間のゲノム比較や、創始者起源の異なる欧米DM2患者の伸長CCTG反復配列とその周辺構造の比較解析をさらに進め、DM2 CCTGリピート不安定伸長機序と病態における意義を解明していく予定である。
他財源からの研究助成があったこと、新型コロナウイルス感染による研究遅延や学会参加を見合わせたことによるため。2022年度内に研究計画を完遂させるよう努力する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Biochim Biophys Acta Mol Cell Res
巻: 1868 ページ: 118862
10.1016/j.bbamcr.2020.118862.
Sci Adv
巻: 7 ページ: eabd9440
10.1126/sciadv.abd9440