研究課題/領域番号 |
20K07742
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山下 直也 順天堂大学, 医学部, 講師 (40508793)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軸索輸送 / 逆行性シグナル / トランスサイトーシス / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
神経発生過程において、神経成長因子(NGF)は、神経軸索の先端に発現する受容体(TrkA)により受容され、神経栄養作用を発揮する。この時、NGF-TrkAシグナル複合体は、軸索から細胞体へ逆行性軸索輸送されて、細胞体までシグナルを伝搬する。研究代表者は、細胞体に到達した軸索由来のTrkAが、細胞体膜由来のTrkAに作用し、その軸索先端へのトランスサイトーシスを促進するポジティブフィードバックを明らかにしたことを契機に、トランスサイトーシスされるTrkAの生理作用を追及している。本研究において研究代表者は、アルツハイマー病(AD)発症との関連が深いアミロイドβ前駆タンパク質(APP)が、TrkAと共輸送されることを明らかにした。さらに、TrkA、APPの相互作用部位を、それぞれ41アミノ酸、12アミノ酸まで絞り込むことに成功した。また、APPには神経突起様の構造体形成を誘導する役割があることを見出し、このAPPの作用にはTrkAとの相互作用領域が必要なことが分かった。従って、APPがTrkAと共輸送されることで、軸索伸長などのNGFの生理作用が発揮されることが示唆された。 またAPPは、種々の切断を受けてアミロイドβを産生することでAD発症に関与することが知られているが、TrkA-APPの共輸送には、APPの細胞内輸送を制御することで、アミロイドβ産生を抑制する役割があることが分かった。 以上から、TrkA-APPの共輸送には、NGFによる神経栄養作用とアミロイドβの産生抑制という二経路を介して神経系の恒常性維持に関わり、AD発症を抑制する役割があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
APPがNGFによる逆行性シグナル伝達に関与する分子機構、ならびに、APP自体の切断が、NGF逆行性シグナルにより調整つされる機構の大枠が分かり、計画したとおりに進展していると判断できるため。
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今後の研究の推進方策 |
すでに明らかにしたTrkA-APPの相互作用領域の部分ペプチドを用いた阻害実験を行い、TrkA-APPの共輸送が、NGFの生理作用並びにAPPの切断に関与すること証明する。 また計画書に記したとおり、研究代表者は、NGFを介したTrkA-APPの共輸送を抑制する候補として、セマフォリン3Aシグナルを見出している。そこで、これまで明らかにしたTrkA-APPの共輸送の生理作用を、Sema3Aシグナル過剰が抑制することを明らかにする。また、TrkA-APPの共輸送はAD発症を抑制する可能性があることから、脳内Sema3A量を定量し、Sema3Aシグナルの過剰とAD発症との関連を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言により、4-6月の研究活動に制限があったことと、学会がすべてオンラインになったため、旅費がかからなかったため次年度使用額が生じた。したがって、研究活動に支障が生じた二か月分の研究活動の遂行と学会旅費(状況が改善次第)として、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である。
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