α-シヌクレインフィブリルをマウス線条体に注入後の、α-シヌクレイン凝集体の形態と分布について、早期より経時的にリン酸化α-シヌクレインに対する免疫組織化学的手法を用いて検討した。その結果注入2週後ですでに線条体で点状や線維状の凝集体がみられた。注入4週後では線条体で多くの点状や線維状の凝集体が見られ、新皮質や黒質でも円形の凝集体が頻繁に観察された。注入8週後では線条体で観察される凝集体の数は減少したが、新皮質や黒質ではさらに円形の凝集体の数は増加した。注入16週後では円形の凝集体が線条体でも観察された。 最終年度においては、各種マーカータンパク質との多重染色を行い、それぞれの凝集体がどのような種類の神経細胞に局在しているのか検討した。その結果、興奮性細胞軸索マーカーであるVGLUT1と点状の凝集体の一部が共局在することがわかった。さらに、円形の凝集体が新皮質のNeuN陽性細胞、黒質のTH陽性細胞、線条体のDARPP-32陽性細胞と高頻度で共存することがわかった。さらに、免疫電子顕微鏡によりマウス新皮質のリン酸化α-シヌクレイン陽性構造物を確認した。これらの結果は、α-シヌクレインが神経細胞を逆行性に伝播していくことを支持している。私たちはさらにマイクログリアマーカー(Iba1)やアストロサイトマーカー(GFAP)との多重染色を行ったが、それらと凝集α-synとの共局在は検出されなかった。 さらに、各神経細胞種のマーカーと共存している凝集体の数について線条体と黒質で検討を行った。その結果、黒質に比べて線条体での凝集体数が有意に少ないことが分かった。黒質から線条体へ軸索投射している神経細胞はドーパミン作動性ニューロンであり、線条体に多く存在しているのはGABA作動性ニューロンであることより、α-シヌクレイン凝集体の伝播の度合いが神経細胞種より異なることが示唆された。
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