ケトン食療法は、低炭水化物・高脂肪食により血中のケトン体を増加させ、擬似絶食状態を引き起こす、抗けいれん薬難治性の小児てんかんにも効果が期待できる治療法である。しかし、ケトン食療法の短所の一つとして、その効果が発現するまでに食事療法を開始してから時間がかかることが挙げられる。ケトン食療法を適切に、また患者さんの苦痛をできるだけ少なく施行するために、その治療効果が発現するまでの時間を短縮することは、我々が考えるべき優先事項の一つである。本研究では、ケトン食療法の効果発現までの時間が長い理由を解明することを目的としている。そのため、絶食およびケトン食療法をラットに施行することにより、抗けいれん作用、血中・脳脊髄液中ケトン体濃度およびグルコース濃度が、経時的にいかに変化するのかを観察した。また、血液‐脳-関門培養細胞モデルを用いてケトン体の中枢移行性変化を観察した。最終年度(2023年度)の研究では、24時間絶食施行時と7日間ケトン食療法施行時の抗けいれん作用、ケトン体体内動態を比較した。その結果、抗けいれん作用と脳脊髄液ケトン体濃度はほぼ同程度であったのに対し、血中ケトン体濃度の上昇はケトン食療法の方が絶食より有意に弱かった。また、血中・脳脊髄液グルコース濃度の低下もケトン食療法の方が有意に弱かった。血液‐脳-関門培養細胞モデルを用いた研究では、血管側のグルコース濃度低下によるケトン体の中枢移行性の変化を比較したが、グルコース低下による有意な変化は観察されず、低血糖はケトン体の中枢移行性に影響を与えなかった。これまでの研究により、ケトン食療法では、低血糖の発現が抑えられている一方、血中ケトン体濃度の上昇が絶食より弱く、血液‐脳-関門におけるMCT1を介したケトン体輸送が制限されているため、脳内へのケトン体移行に時間がかかる結果、抗けいれん作用の発現が遅くなると考えられた。
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