研究実績の概要 |
舌は運動器であり感覚器でもある特殊な臓器である。臨床では、舌痛症は難治性で、女性に好発することが知られているが、性差を考慮したモデル動物は開発されておらず、有効な治療法がない。本研究では、舌神経障害(LNI)モデル動物と舌痛症のモデル動物を作製し、それらモデルにおいて舌の体性感覚中枢情報処理機構を明らかにすることを目的とした。 LNIモデル動物で後1日目より9日目まで,雄性および雌性マウスともに機械または熱刺激による頭部引っ込め反射閾値(HWRT)が有意に低下した。LNI後1, 5, 7, 9日目,雄性マウスの機械刺激によるHWRTは雌性マウスと比較して有意に低かった。ミクログリア活性化阻害薬であるミノサイクリンの大槽内投与後,LNI後の機械または熱刺激によるHWRT低下の抑制が雄性マウスでのみ認められた。一方,T細胞に発現するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γアゴニストであるピオグリタゾンの大槽内投与後,LNI後の機械または熱刺激によるHWRT低下の抑制が雌性マウスでのみ認められた。LNI後の舌神経障害性疼痛の性差には,上行性痛覚伝達系の興奮性を調節する免疫細胞の相違が関与することが示唆された。 舌には何の処置もしていない雌性マウスにおいて、卵巣摘出(OVX)、OVX+拘束性ストレス(21日間)を施したのちの舌への機械や熱刺激に対してのHWRTを調べた。その結果、OVXのみの群ではHWRTの有意な低下は見られず、ストレス群やOVX+ストレス群ではその反射の有意な低下がみられた。わずかにOVX+ストレス群の方が低い閾値を示した。閾値が低下したストレス群やOVX+ストレス群でピオグリタゾンを大漕内投与したところ、その閾値の低下が抑制された。これらのことから、今回の舌痛症のモデルでは、閉経よりもストレスがその症状を引き起こし、それにT細胞系が関与することが示唆された。
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