研究課題
がん患者の7-8割はその過程で疼痛を経験するが、既存の鎮痛薬で緩和できないことも少なくなく、新規鎮痛薬が求められている。がん患者の疼痛は、がん自身による炎症ならびに神経圧迫をはじめとする神経障害に加え、がん治療による神経障害など様々な要因で生じる痛みであることから治療ターゲットとなる因子は多く、様々な因子を制御できる治療の開発が疼痛緩和に重要である。間葉系幹細胞(MSC)は多分化能を有し、抗炎症作用、神経保護作用など様々な作用があることが報告されており、その応用は世界で注目されている。そこで、本研究は既存の鎮痛薬では制御しにくい疼痛モデル動物を作製し、ヒトMSCの鎮痛効果ならびに鎮痛メカニズムを解析し、MSC臨床応用に向けての必要な基礎的データの蓄積を目指した。当該年度は、坐骨神経部分結紮(PSNL)モデル動物を作製し、脂肪ならびに臍帯由来のMSC (AD-MSC or UC-MSC)を尾静脈内投与し、機械閾値を測定するvon Frey testならびに後肢左右の荷重を測定するDynamic weight bearing testを用いて鎮痛の程度を測定した。その結果、1回のAD-ならびにUC-MSC投与により鎮痛作用が約1週間続くことを明らかにした。次に、一次知覚神経細胞が存在する脊髄後根神経節(DRG)および坐骨神経を採取し、免疫組織化学染色を用いてMSCの鎮痛作用メカニズムの解析を行った。その結果、PSNLにより、DRGにおいてはマクロファージのマーカーIba-1および炎症性メディエーター interleukin-1βが上昇し、また坐骨神経においてはmyelin basic proteinが減少した。これらの上昇は両MSC投与により有意に抑制された。したがって、MSCは少なくとも炎症およびミエリン変性を改善することにより神経障害性疼痛を抑制することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該年度はPSNLモデルを用いたAD-およびUC-MSCの鎮痛効果を解析し、その鎮痛メカニズムについて解析を行った。更なる詳細な鎮痛作用メカニズムの解析が必要であるが、当該年度の研究計画目標はおおむね順調に進展している。
令和3年度はAD-およびUC-MSCの鎮痛作用メカニズムについて免疫組織化学染色を用いて更に詳細に解析を行い、本成果を論文にまとめる予定である。
理由:令和2年度は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発出などにより、研究活動ならびに学会などが延期となり、研究費の使用が当初の予定どおりにはいかなかったため。使用計画:令和3年度は、直接経費の繰り越し分を以下の予算にて研究を遂行する;物品費:628,368円、その他:450,000円。令和3年度の研究費は主に上述した研究推進方策を進めるために必要な消耗品や実験動物などの購入(物品費)、英文校正・論文投稿費(その他費)に充当する予定である。
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