研究課題
研究代表者はこれまでに神経細胞機能と細胞骨格制御との関係に注目し、マウスを用いた神経軸索の再生研究を行っており、アクチン重合を制御するDock3と呼ばれるタンパクに再生促進効果があることを明らかにしてきた。本研究では網膜の神経に注目し、Dock3シグナルの上流因子であるTrkBを用いた遺伝子治療によって神経再生を強力に促し、軸索損傷によって失明したマウスの視機能回復に挑戦している。そのために、アデノ随伴ウィルス(AAV)を活用した遺伝子発現により、細胞内の再生シグナルを増強することで神経保護および神経再生などを誘導するかどうかについて検討している。特に、独自に開発した常時活性型のTrkB分子を利用した遺伝子治療では、視神経挫滅によって障害を受けた網膜神経細胞を強力に保護出来るだけでなく、切断された軸索を再度伸長させることを見出しており、遺伝子治療の分子として非常に有効である可能性がある。また、この常時活性型TrkB分子はERKシグナルおよびAKTシグナルだけでなく様々な細胞内シグナルを活性化することも明らかとなった。一方、独自に作製したHaus7 KOマウスにおいて、多局所網膜電図や視覚誘発電位などを測定したところ野生型マウスと相違は認められないことから、視機能は正常であることを明らかにしている。さらに視神経の電子顕微鏡画像からも、微小管形成について顕著な異常は認められないことからも、Haus7 KOマウスにおいて視覚器の発生は正常であることが明確となった。
2: おおむね順調に進展している
コロナ渦のため研究試薬の在庫枯渇などの問題が生じてはいるが、代替え品に差し替えるなどで対応している。また、常時活性型TrkB分子のAAV精製方法も十分に確立しており研究は順調に進行している。
常時活性型TrkB分子による神経保護効果および軸索再生効果が、どの細胞内シグナルを介しているのかを明らかにするためERKシグナルまたはAKTシグナルなどそれぞれのシグナル経路を単独で活性化するAAVを作製し、神経保護効果および軸索再生効果についての検討を開始する。
研究試薬や消耗品の購入は計画通りであったため、次年度への持ち越し金額はほとんど無い。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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