研究課題/領域番号 |
20K07754
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
澁谷 和幹 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (90507360)
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研究分担者 |
桑原 聡 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (70282481)
鈴木 陽一 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (80818485) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 運動ニューロン疾患 |
研究実績の概要 |
運動ニューロン疾患の運動神経細胞死に関わる運動神経興奮性の関与について研究を進め、さらなる研究成果を明らかにすることが出来た。 具体的には、筋超音波検査を用いて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における線維束性収縮の全身における分布を報告した。この研究により、ALSでは利き手側の線維束性収縮が有意に多いことが判明した。元々、線維束性収縮は、末梢運動神経の興奮性増大によりもたらされることが知られている。今回の研究で、線維束性収縮が利き手側に多いことが判明し、利き手側の方がより興奮性神経伝達物質に曝されており、興奮性がより高まっている可能性が示唆された。またこれがALS病態基盤と深く関わっている可能性が考えられた。 更に、ALS患者の運動皮質興奮性測定に用いられる閾値追跡法経頭蓋磁気刺激検査(TT-TMS)を用いて、健常者の運動皮質興奮性データの人種間差を明らかにした。T-TMSは、運動皮質興奮性測定法としてALS患者に適応され、ALSおよびALS類似疾患を高い感度および特異度で鑑別できることが主に白人患者を中心として報告されている。一方、TT-TMSの人種間での所見の差異は十分に検討されていなかった。今回、健常日本人、中国人、白人(オーストラリア人)を対象としてTT-TMSを実施し、これらに顕著な差異がないことを明らかにした。この研究成果は、運動ニューロン疾患における神経細胞興奮性研究の基盤的データとなることが今後期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの感染拡大により、筋萎縮性側索硬化症をはじめとする運動ニューロン疾患患者の診療に制限が生じた。具体的には、入院病床に制限・縮小が生じ、運動ニューロン疾患の入院精査・確定診断が困難となった。そのため、臨床試験の実施や患者組み入れに困難が生じ、研究計画を従来の予定通り進めることが困難となった。そのため、研究方針に関して、方針転換を余儀なくされた。 一方、運動ニューロン疾患と神経興奮性の関係に関する病態研究は、感染拡大前と遜色なく概ね順調に進めることが出来た。特に、筋萎縮性側索硬化症における線維束性収縮の全身における分布に関する研究(Suzuki YI, Shibuya K, et al., Fasciculation intensity and limb dominance in amyotrophic lateral sclerosis: a muscle ultrasonographic study. BMC Neurol. 2022 Mar 11;22(1):85.)や閾値追跡法経頭蓋磁気刺激検査の人種間差に関する研究(Suzuki YI, Ma Y, Shibuya K, et al., Effect of racial background on motor cortical function as measured by threshold tracking transcranial magnetic stimulation. J Neurophysiol. 2021 Sep 1;126(3):840-844.)の研究成果を国際誌に発表することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた、イオンチャネル修飾薬が運動ニューロン疾患の神経興奮性を制御を検討するための臨床試験については、試験の実施自体が困難な状況となってきた。 一方、運動ニューロン疾患の神経興奮性を総合的に評価するシステムの確立に関しては、当初の予定通り、概ね順調に進んでいるものと考える。実際、軸索興奮性検査を用いた末梢神経興奮性検査については、これを確立し国際誌に論文発表を行うことが出来た。更に、中枢神経運動野の興奮性を測定する閾値追跡法経頭蓋磁気刺激検査についても、健常データを多数収集し、これを国際誌に論文発表を行うことが出来た。加えて、筋超音波検査を用いて、末梢運動神経の興奮性を反映する線維束性収縮の観察手法を確立し、これに関する研究結果も国際誌に報告することが出来た。これらにより、運動ニューロン疾患の神経興奮性を総合的に評価するシステムの確立に関しては、順調に進捗しているものと考える。 新型コロナウィルスの感染拡大により、イオンチャネル修飾薬が運動ニューロン疾患の神経興奮性を制御を検討するための臨床試験の実施が困難となりつつあることから、神経興奮性を総合的に評価するシステムの確立を介して、その背景病態や治療作用点に関して、更に深く研究を進めていくことで研究の進捗を補っていきたいものと考えている。更に病態背景を明らかにすることで、予定していた臨床試験を補完していくものになる得ると予想する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、イオンチャネル修飾薬を用いた運動ニューロン疾患の神経興奮性の変化を検証するための臨床試験が実施困難となってきたため、臨床試験の実施に関わる薬剤費や統計解析費用、負担軽減費、データマネジメント費用等の差額が生じた。一方、運動神経興奮性を測定するためのシステムの確立については、当初の予定通りに進んでおり、次年度も更なる発展が期待され、その分の経費が掛かってくることが予想される。
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