研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、皮質運動ニューロン・脊髄運動ニューロンの系統変性が起きる神経変性疾患である。また球脊髄性筋萎縮症(SBMA)も、脊髄運動ニューロンに系統変性が生じる神経変性疾患である。いずれも、難治性の運動ニューロン疾患として知られている。次世代の電気生理学的手法の開発により、ALSでは皮質運動ニューロン・脊髄運動ニューロンの興奮性が増大していること、SBMAでは脊髄運動ニューロンの興奮性が増大していることが判明した(Shibuya et al., JNNP. 2020)。運動ニューロンの興奮性増大は、代謝要求・酸化ストレスを増大させ、運動神経細胞死を招くことと考えられる。そのためこれらの運動ニューロン疾患において、運動神経細胞死と運動ニューロンの興奮性増大は密接に関連していることが想定される。これら運動ニューロン疾患の新規治療薬開発の基盤的研究として、運動神経興奮性に関する研究を遂行した。 これまで、健常アジア人を対象として皮質運動ニューロンの機能評価を行った研究は、殆どなかった。このため、健常日本人、中国人、白人(オーストラリア人)において、皮質運動ニューロンの機能評価を閾値追跡法経頭蓋磁気刺激検査を用いて行った。皮質運動ニューロン機能において、人種間差は殆どないことが判明した(Suzuki et al., J Neurophysiol. 2021)。またALSにおいて、皮質運動ニューロンと脊髄運動ニューロンの興奮性の関係を検討した。この研究では、皮質運動ニューロンの興奮性増大は病初期から顕著であるものの、脊髄運動ニューロンの興奮性は病期と共に顕著となることが明らかとなった(Suzuki et al., JNNP. 2022)。これらの知見は、運動ニューロン疾患の治療薬開発における基盤的データとなることが期待される。
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