パーキンソン病(PD)は中脳黒質ドーパミン神経細胞の脱落を特徴とする神経変性疾患であり、その発症メカニズムは未だ解明されていない。本研究ではPD原因分子であるleucine-rich repeat kinase 2 (LRRK2) の腸管神経系における役割とその異常による腸管神経病態の形成機序を明らかにすることを目的としている。2022年度の研究実績は以下の通りである。 腸管神経系におけるLRRK2発現は神経細胞よりもグリア細胞で優位である。②グリア細胞のマーカータンパク質であるSox2を発現する神経細胞は類似タンパク質のSox10を発現しない。 以上の結果と研究期間全体の成果から、LRRK2は腸管グリア細胞に優位に発現していることが明らかになった。また、LRRK2 欠損 (KO) マウスのENSでは神経細胞とグリア細胞の両方の特徴を有するbi-phenotypic cellが増加していることを明らかにした。ENSでは特定の条件下においてグリア細胞が神経細胞へ脱分化を経て分化する現象が知られており、本研究結果から腸管グリア細胞の5-HT4受容体下流のシグナル伝達をLRRK2が負に制御している可能性が示唆された。またKOマウスでは5-HT4受容体下流のシグナル分子であるリン酸化CREBが増加していたことから、LRRK2はCREBのリン酸化を介して腸管神経新生をコントロールしていることが考えられた。興味深い点として、他のPD発症因子の一つであるalpha-synucleinがKOマウスのENSで優位に増加しており、腸管神経新生との因果関係は未だ不明ではあるもののPD発症の引き金になる可能性が考えられた。
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