研究課題/領域番号 |
20K07769
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
田中 義久 大阪医科大学, 医学部, 助教 (20648703)
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研究分担者 |
濱岡 仁美 (黒瀬仁美) 大阪医科大学, 医学部, 講師 (80545608)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラッベ病 / 脱髄疾患 / ゲノム編集 / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
病気は様々な環境要因や遺伝要因によってもたらされる。ヒトゲノム中には300万ヵ所以上の一塩基多型(SNP)があり、疾患の成因、薬物の反応性、体質、性格など我々の個性を規定するものが数多く存在している。約50000種以上の遺伝子異常がヒトの病気に関係していることが知られているが、そのうちの32000種ほどは、たった一塩基の変異によって引き起こされている。つまり、一塩基の書き換えは様々な病気の治療を可能とする技術となる。近年、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9システムを改変して一塩基編集を可能としたツールが発表された。その技術はin vitroではある程度の成果は得られているものの、in vivoへ応用した報告例はまだ数少ない状況である。本研究は、遺伝性脱髄疾患であるクラッベ病のモデル動物として知られているTwitcherマウスに一塩基編集技術を利用し、SNPsによってもたらされる様々な疾患の根本的な治療法の開発に向けた基礎研究を行う。Twitcher マウスはガラクトセロブロシダーゼ(GALC) 遺伝子にナンセンス変異を持ったクラッベ病の病態に非常によい動物モデルである。これまでクラッベ病の治療法としては骨髄移植が用いられてきたが効果は限定的である。近年ではAAVベクターを用いた正常なGALC酵素の補充により効果を上げてきているが、ウイルスに対する抗体やT細胞による不活化により長期的な効果は望めない。よって長期的な効果の持続または完全な治癒という観点から見れば一塩基編集は最適な治療法となりうる。本年度では、まず培養細胞を用いたin vitroの系で一塩基編集技術を確立し、GALC遺伝子の修復に有効であるかどうか検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養細胞を用いたin vitroの系で一塩基編集技術を確立するにあたって、初めにHEK細胞のゲノム編集を行った。ゲノム編集ツールのベクターをAddgeneより購入し、リポフェクション法により細胞へ導入し、編集効率を算出した結果、50%ほどの効率でアデニンをグアニンに置換できることが示された。Twitcher マウス由来の初代培養細胞を用いてゲノム編集を試みる予定であったが、本学で所有していたTwitcher マウスの凍結胚が紛失しており、早期にTwitcher マウスを入手することが困難となった。その代替として、既存のTwitcher マウス由来のシュワン細胞株であるTwS1を入手し、GALC遺伝子の修復を試みた。エレクトロポレーションによるTwS1細胞株へのEGFP発現ベクターの導入効率は86.8%であった。ゲノム編集ツールのベクターをTwS1細胞株へ導入し、GALC遺伝子のナンセンス変異の編集効率を算出したところ36.9%であった。当初の実験計画からやや遅れているが、ゲノム編集によるGALC遺伝子の編集効率の結果から、十分にGALC遺伝子の修復に効果が期待できる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、GALC遺伝子の修復に伴い、生化学的にGALC 酵素活性を測定する。酵素活性の上昇が認められない場合、別のゲノム編集ツールを使用してGALC遺伝子の修復を試みる。GALC 酵素活性の上昇が認められた場合、In vivoでの導入に適したAAVベクターの構築を行う。ゲノム編集ツールはサイズが大きいため、単一のAAVベクターに組み込むことは困難なため、split-intein法(二分割したタンパク質の塩基情報を別々のベクターに組み込み、各々細胞内で発現されたタンパク質が再結合することによって元来のタンパク質として機能することができる手法)を用いて2つのAAVベクターの作製を行う。作製されたAAVベクターをTwS1細胞株へ導入し、GALCのナンセンス変異が修復されているかどうか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Twitcherマウスの維持費としての使用分が不要になったため余剰金が発生したが、次年度のAAVベクターの作製費や物品購入費に充てる予定である。
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