研究課題/領域番号 |
20K07773
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
三五 一憲 公益財団法人東京都医学総合研究所, 疾患制御研究分野, プロジェクトリーダー (50291943)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 末梢神経障害 / ニューロン / シュワン細胞 / 血管内皮細胞 / 相互解析系 |
研究実績の概要 |
本研究ではニューロパチーの成因解明を目的として、末梢神経系を構成するニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の特性や、これら細胞間の相互作用を詳細に解析できる実験系の確立を進めている。初年度は血管内皮細胞培養系の確立及びニューロンやシュワン細胞との特性比較を中心に解析を進め、以下の成果を挙げた。 1) ヒト血管内皮細胞HAEC、HUVEC及び株化マウス血管内皮細胞UV♀2の培養系を確立した。また糖尿病性ニューロパチーの病態解明のため、UV♀2の高グルコース負荷に伴う代謝変化を、株化マウス運動ニューロンNSC-34、株化マウスシュワン細胞IWARS1と比較検討中である。 2) HAEC、初代培養ラット後根神経節(DRG)ニューロン、株化シュワン細胞IMS32を高グルコース・外因性ピルビン酸欠失環境下に暴露すると、解糖系-TCA回路を介したATP産生が著しく阻害され、解糖系側副路代謝や酸化ストレスが亢進し、短時間で顕著な細胞死が誘導されることを明らかにした(論文投稿中)。 3) GLP-1受容体作動薬exendin-4 (Ex-4)はラットDRG ニューロンや株化ラットシュワン細胞IFRS1に直接作用し、PI3 kinase経路を介して神経突起伸長、シュワン細胞遊走、共培養系における髄鞘形成をいずれも促進することを明らかにした (Int J Mol Sci 2021)。 4) 最終糖化産物前駆物質glycolaldehydeや抗がん剤oxaliplatinの、株化ラットDRGニューロンND7/23及びIFRS1に対する細胞死誘導メカニズムを明らかにした (Histochem Cell Biol 2020; 投稿準備中)。またオキサリプラチンの神経毒性に対するてんかん・パーキンソン病治療薬zonisamideの予防・回復効果を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) ヒト及びマウス血管内皮細胞培養系を確立し、その高グルコース負荷に伴う代謝変化を、ニューロン、シュワン細胞と比較検討中である。 2) 高グルコース環境下におけるニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の代謝回転や生存維持に外因性ピルビン酸が必要であることを、ほぼ明らかにした。 3) Ex-4がDRGニューロンの神経突起伸長、シュワン細胞の生存・遊走、両者の共培養系の髄鞘形成を促進することを明らかにし、論文として発表した。 4) glycolaldehyde及びoxaliplatinの細胞毒性メカニズムを詳細に検討することができ、後者ではニューロンとシュワン細胞で毒性が異なることも明らかにした。 5) ニューロンとシュワン細胞の共培養系は確立しているが、これに血管内皮細胞を加えた相互解析系の確立には至っておらず、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1) カルチャーインサートを用いた二層培養により、ニューロンーシュワン細胞ー血管内皮細胞の相互解析系を確立する。 2) 上記解析系を用いて、高グルコース負荷、glycolaldehyde、oxaliplatinの末梢神経変性誘導メカニズムを明らかにする。特に血管内皮細胞へのglycolaldehydeやoxaliplatin負荷が、ニューロン・シュワン細胞死や脱髄様病変を誘導するかどうかを検討する。さらにEx-4やzonisamaideの毒性緩和効果を検討する。 3) 上記解析により得られた知見を、各ラットモデル(ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットや薬剤投与ラット)で検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:オープンアクセス論文の掲載料約16万円が、編者特典で無料になった。 使用計画:2021年度投稿予定の論文の掲載料に使用する。
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