研究課題
本研究ではニューロパチーの成因解明を目的として、末梢神経系を構成するニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の特性や、これら細胞間の相互作用を詳細に解析できる実験系の確立を進めている。今年度は高グルコース環境下におけるヒトおよびマウス血管内皮細胞培養系の代謝変化を解析し、ニューロンやシュワン細胞との比較検討を進めた。1) 糖尿病性ニューロパチーの病態解明のため、株化マウス血管内皮細胞UV♀2の高グルコース負荷に伴う代謝変化を、株化マウス運動ニューロンNSC-34、株化マウスシュワン細胞IWARS1と比較検討した(日本分子生物学会年会2021)。2) ヒト血管内皮細胞HAEC、初代培養ラット後根神経節(DRG)ニューロン、株化シュワン細胞IMS32を高グルコース・外因性ピルビン酸欠失環境下に暴露すると、いずれも解糖系-TCA回路を介したATP産生が著しく阻害され、解糖系側副路代謝や酸化ストレスが亢進し、短時間で顕著な細胞死が誘導されることを明らかにした(Sci Rep 2021)。3) GLP-1受容体作動薬exendin-4 (Ex-4)は初代培養ラットDRG ニューロンや株化ラットシュワン細胞IFRS1に直接作用し、PI3 kinase経路を介して神経突起伸長、シュワン細胞遊走、共培養系における髄鞘形成をいずれも促進することを明らかにした (Int J Mol Sci 2021)。4) 初代培養ラットDRGニューロン、株化ラットDRGニューロンND7/23、FRS1、DRGニューロンーIFRS1共培養系を用いて、抗がん剤オキサリプラチンの神経毒性メカニズムを明らかにした。またてんかん・パーキンソン病治療薬ゾニサミドのオキサリプラチン神経毒性緩和機序を解析した(日本生化学会大会2021; Society for Neuroscience 2021; 投稿準備中)。
2: おおむね順調に進展している
1) ヒト及びマウス血管内皮細胞の高グルコース負荷に伴う代謝変化を、ニューロン、シュワン細胞と比較検討中であり、メタボローム解析による新規知見を得ている(2022年度日本分子生物学会にて発表予定;投稿準備中)。2) 高グルコース環境下におけるニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の代謝回転や生存維持に外因性ピルビン酸が必要であることを明らかにし、論文として発表した。3) Ex-4がDRGニューロンの神経突起伸長、シュワン細胞の生存・遊走、両者の共培養系の髄鞘形成を促進することを明らかにし、論文として発表した。4) ゾニサミドのオキサリプラチン神経毒性緩和メカニズムを詳細に解析し、その成果を2022年度日本生化学会大会シンポジウムで発表予定である(投稿準備中)。5) ニューロンとシュワン細胞の共培養系は確立しているが、これに血管内皮細胞を加えた相互解析系の確立には至っておらず、今後の課題である。
1) カルチャーインサートを用いた二層培養により、ニューロンーシュワン細胞ー血管内皮細胞の相互解析系を確立する。2) 上記解析系を用いて、高グルコース負荷、オキサリプラチンの末梢神経変性誘導メカニズムを明らかにする。特に血管内皮細胞への高グルコースやオキサリプラチン負荷が、ニューロン・シュワン細胞死や脱髄様病変を誘導するかどうかを検討する。さらにEx-4やゾニサミドの毒性緩和効果を検討する。3) 上記解析により得られた知見を、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスやオキサリプラチン投与ラットで検証する。
理由:オープンアクセス論文の掲載料約20万円を予定していたが、年度内に掲載できなかった。使用計画:2022年度掲載予定論文の掲載料に使用する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (3件)
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