本研究ではニューロパチーの成因解明を目的として、末梢神経系を構成するニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の特性や、これら細胞間の相互作用を詳細に解析できる実験系の確立を進めてきた。
最終年度は高グルコース環境下における株化マウス血管内皮細胞UV♀2培養の遺伝子・蛋白発現を解析し、これまでに解明した代謝変化との関連を検討した。高グルコース負荷UV♀2では、1) 細胞内グルコース取り込みが増加、2) 解糖系フラックスが低下、3) 解糖系側副路フラックスが増加、4) 低酸素誘導因子Hif-1発現が減少していることを明らかにした。Hif-1の減少は解糖系フラックスを抑制することが報告されているので、血管内皮細胞のHif-1が、ニューロパチーや他の細小血管合併症の新たな治療標的となる可能性が示唆された(投稿準備中、2023年度日本分子生物学会年会で発表予定)。
研究期間全体を通じて、1) ニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞の高グルコース環境下での生存や糖代謝回転維持に外因性ピルビン酸が重要であること(Sci Rep 2021)、2) GLP-1受容体作動薬exendin-4が、ニューロンの神経突起伸長、シュワン細胞の生存・遊走・髄鞘形成を促進すること(Int J Mol Sci 2021; Front Cell Dev Biol 2022)、3) てんかん・パーキンソン病治療薬ゾニサミドがニューロンに対する保護作用を示すこと(Int J Mol Sci 2022)などを明らかにした。また、ニューロン、シュワン細胞、血管内皮細胞間の相互作用解析系の構築を進めているが完成しておらず、今後の検討課題である。
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