遺伝子とシグナル蛋白の解析を統合した分子標的薬感受性検査法の開発を目指した研究課題をさらに展開すべく、2023年度は新たな標的治療の候補分子として、チロシンキナーゼ型受容体であるTYRO3に注目した。TYRO3を高発現をしている3種の白血病細胞株に対して、TYRO3を選択的に阻害する低分子化合物が存在しないため、small interfering RNAを導入してTYRO3をノックダウンすると、細胞増殖が抑制された。抑制の分子機序として、網羅的遺伝子発現解析やイムノブロット解析を行い、TYRO3ノックダウンにより、ERKやSTAT3のリン酸化が抑制され、MYCやSurvivinの発現が減少した。この事実は、TYRO3は新たな分子標的治療の標的分子となりうることを示し、白血病細胞におけるTYRO3のmRNAや蛋白の発現解析が、その感受性を予測しうる検査法となる可能性を示した。これらの知見は2022年に英文原著論文として報告した。 次に、多くの白血病でmRNAや蛋白が高発現しているMYCの阻害剤が新たな分子標的薬となりうるかを、MYCの機能を阻害する低分子化合物を用いて細胞培養系で検討した。MYC阻害剤は白血病細胞の増殖を抑制し、その分子機序として、MYCシグナルの下流に存在するAP4、p27、p21に影響するだけでなく、NOTCH1活性型変異を有するTリンパ芽球性白血病細胞ではNOTCHシグナルをも抑制することを見出した。これらの事実は、今後、MYC阻害剤が分子標的薬となりうる可能性を示し、MYC発現やNOTCH1変異の解析が、その感受性を予測する検査法となりうる。この知見は学会発表し、2023年度中に英文原著論文として報告する見込みである。臨床応用に向けて、白血病患者検体でも同様の結果が得られることを確かめる必要があり、現在、検討中である。
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