研究課題/領域番号 |
20K07786
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
涌井 広道 横浜市立大学, 医学部, 准教授 (10587330)
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研究分担者 |
山下 暁朗 横浜市立大学, 医学研究科, 客員教授 (20405020)
田村 功一 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (40285143)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レニン-アンジオテンシン系 / 慢性腎臓病 / アンチエイジング / 糖尿病 / 老化 |
研究実績の概要 |
老化加速病態である糖尿病において、尿細管におけるATRAPが、尿細管局所でのサイトカイン環境を調節し、M2マクロファージの発現制御を介して、糖尿病糸球体障害を抑制する可能性を明らかにした。最初に、野生型マウスを用いて、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病を惹起させると、腎尿細管のATRAP発現の減少ともに、腎アンジオテンシノーゲンの発現増加を認め、腎レニン-アンジオテンシン(RA)系の活性化が示唆された。次に野生型マウスと全身性ATRAPノックアウトにストレプトゾトシン誘発性糖尿病を起こし、腎臓の変化を観察した。その結果、糖尿病ATRAPノックアウトマウスでは、血圧や血糖値などは糖尿病野生型マウスと同等であったが、尿細管RA系の活性はより亢進しており、糖尿病性腎症の糸球体障害(アルブミン尿、糸球体腫大、足細胞の脱落など)の増悪とともに尿細管間質でのIL-13の発現低下とM2マクロファージの減少を認めた。この現象は、近位尿細管特異的ATRAPノックアウトマウスでも観察された。そこで、マウスの骨髄から抽出して培養したM2マクロファージを糖尿病ATRAPノックアウトマウスに投与したところ、野生型糖尿病マウスと同程度まで糖尿病性腎症の糸球体障害が改善した。さらに、糸球体遺伝子発現解析の結果、尿細管でのM2マクロファージが、糸球体でのTNF-α、酸化ストレスを抑制して糖尿病性糸球体障害を抑制する可能性が示唆された。以上より、糖尿病性腎症に対するレニン‐アンジオテンシン(R-A)系阻害薬の腎保護効果の新たなメカニズムとして、腎尿細管RA系の過剰な活性化が糸球体障害を増悪させるという腎尿細管-糸球体連関の存在が示唆された。すなわち、尿細管ATRAPは糖尿病性腎症の新たな治療標的となる可能性がある。本研究成果はKidney International誌に報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
老化加速病態として捉えることもできる糖尿病性腎症におけるATRAPの機能的意義を明らかにした。老化関連代謝性腎障害におけるATRAPの病態生理学的意義の検討をさらに進めている。
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今後の研究の推進方策 |
loss-of-function strategyとしてATRAP発現低下による老化・代謝性腎症の増悪を明らかにした。今後、ATRAP活性薬治療への実現に向けて、gain-of-function strategyとしてATRAP発現増加による老化・代謝性腎症の抑制・改善効果を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
尿中アルブミン測定が自施設で実施可能となったため、経費を節約できた。次年度、メタボローム解析の費用に充てる予定である。
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