研究実績の概要 |
麻黄は医療用漢方エキス製剤16品目に配合される頻用生薬である。これまでに麻黄エキス(EHE) が分子標的治療薬耐性非小細胞肺がん(NSCLC)に過剰発現している肝細胞増殖因子(HGF)受容体c-Metや野生型EGFRのダウンレギュレーションを誘発し、耐性から回復させることを明らかにした(Hyuga, S., et al., eCAM, vol. 2020, Article ID 7184129)。しかし、臨床において分子標的治療薬の対象となるのは活性型変異を有するEGFRを発現したNSCLC患者であることから、活性型変異であるL858RおよびT790Mを有するEGFRとc-Metを発現するNSCLC細胞株H1975細胞を用いてEHEの効果を解析した。その結果、EHEは活性型変異を有するEGFRもダウンレギュレーションすることが明らかになった。さらに活性型変異を有するEGFRのキナーゼ活性を不可逆的に阻害する分子標的治療薬オシメルチニブとEHEの併用効果を解析した結果、EHEはオシメルチニブが共有結合したEGFRもダウンレギュレーションし、併用によってがん細胞の増殖抑制効果が有意に高くなることが明らかになった(Mori, E., Hyuga, S., et al., J. Nat. Med., in press.)。 EHEは受容体が自己リン酸化するほど過剰発現している時にダウンレギュレーションを誘発するのかどうかを検証するため、自己リン酸化されていない程度にc-Metを発現しているヒト乳がん細胞株を用いて解析した。その結果、低濃度のEHEはHGFで誘発されるc-Metのリン酸化を阻害したがダウンレギュレーションは誘発せず、100μg/ml以上のEHEがダウンレギュレーションを誘発することが明らかになった。現在、c-Met下流のシグナルやEGFRについても解析中である。
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