研究課題/領域番号 |
20K07792
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐々木 貴史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70306843)
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研究分担者 |
新井 康通 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20255467)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高齢者コホート / フレイル / 飲酒 |
研究実績の概要 |
本研究では超高齢者ゲノムコホートを用いてフレイル関連遺伝子探索と遺伝子リスク評価法の確立を目指している。Kawasaki Aging Wellbeing Cohort (KAWP)は、ベースラインで85~89歳であり要介護1までの比較的健康な集団を対象とし、追跡調査におこなうことにより健康な超高齢者がどのような経緯をたどり要介護や病気になり、最終期に死亡するかを主な調査目的としたコホート研究である。本研究代表者は、KAWPの中でコホート調査データにマイクロアレイーインピューテーションを用いたゲノム解析を行い、コホートデータと遺伝子的因子の原因遺伝子や相関解析の同定を試みている。本研究では、主にフレイル関連遺伝子探索を行うことを予定していたが、2020年から開始予定だった3年目追跡調査は新型コロナウイルス流行のため終止され経時的な調査データを得ることができなかった。そこで2020年はベースライン調査結果だけを用いた解析を行ない、高齢者の飲酒行動とAldehyde dehydrogenase2 (ALDH2)のミスセンス変異p.E504Kに相当するrs671多型に強い相関があることを見出し、遺伝因子・環境因子など41因子を用いた多変量解析により、ALDH2 rs671、性別が高齢者の飲酒行動に強く相関していることを明らかにした。2021年度は、KAWPコホートの追跡調査及び追跡調査データを用いた因果関係解析を行うことにより、飲酒・遺伝子(ALDH2 rs671)がフレイル、健康・介護状況に与える影響の解析を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではマイクロアレイ-imputation解析によって得られた遺伝型とコホートデータの相関解析を行った。これまでに遺伝解析の同意が得られた1022人に対しイルミナ社Asian Screening Arrayを用いて65万多型の遺伝型を決定し、imputation法を用いて400万遺伝多型情報の推定を行ったが、imputation法に用いたshapeit (version2)プログラム及びimputeプログラムがアップデートされたことから、それぞれshapeit4及びimpute5を用いて再解析を行ったところ、638万多型の遺伝型情報を得ることができた。これらのデータを用いてKAWPベースライン調査項目を解析したところ、飲酒行動で強い相関が見られたことから、詳細な解析を行った。現在の飲酒状況と638万SNV多型を用いたGWASの結果、Aldehyde dehydrogenase2 (ALDH2)のミスセンス変異p.E504Kに相当するrs671に強い相関が見られた。次に現在の遺伝因子を含めた41因子と飲酒行動での多変量解析を行った。まず、この多変量解析をおこなう因子を選定するために、LASSO回帰および5xのクロスバリデーションを行った結果、23因子が抽出された。次にこの23因子を用いて多変量解析を行った結果、相関が強い順にALDH2 rs671、性別、BMI、HDLC、教育歴、ALT、gamma GTP、腎臓病歴が検出された。この中でALDH2 rs671(p.E504K変異あり)、性別(女性)は、オッズ比で0.14、0.17であることから、様々な環境因子も合わせて解析を行ったが、この2遺伝因子が超高齢者における飲酒行動に強く相関していることが明らかになった。また同様に断酒との相関解析をLASSO回帰及び多変量解析で行った結果、ALDH2 rs671が強く相関していた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの流行状況によるが、十分な安全対策を講じ2021年秋からの調査再開を予定している。このKAWP追跡調査データが得られればベースライン調査から4年後の調査対象の状況を把握することが可能となる。ベースライン調査を用いた多変量解析により、各調査項目との相関関係を知ることができたが、その因果関係を知ることができなかった。そこで、4年後の追跡調査結果を得ることができれば、飲酒・遺伝子(ALDH2 rs671)がフレイル、健康・介護状況に与える影響を解析することが可能となる。このことから、2021年はKAWPの調査を中心に研究をすすめる。また、電話による追跡調査は継続して行われていることから、追跡調査結果を用いた飲酒・遺伝子(ALDH2 rs671)がフレイル、健康・介護状況に与える影響の解析を試みる。またKAWPでは、調査参加者の健康保険情報及び介護保険情報を神奈川県及び川崎市からデータを得る同意を得ていることから、これらの情報を収集・解析し、健康保険情報及び介護保険情報からフレイル、健康・介護状況に与える影響を解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は調査が中止となったため、ベースラインデータの解析や、遺伝子解析を中心に行った。次年度使用額は、2021年度のKAWP調査に使用する予定である。
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