研究課題/領域番号 |
20K07795
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
礒濱 洋一郎 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (10240920)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクアポリン / 細胞膜移行 / 清肺湯 |
研究実績の概要 |
水チャネルとして知られるアクアポリン(AQP)類は体内の水分代謝の重要な調節分子であり,新規利尿薬や抗浮腫薬の創生のための標的分子として注目されている.また,増殖能や刺激応答などの基本的性質はAQPの有無によって変化することが細胞レベルで示されており,AQP機能調節薬の様々な疾患の治療への応用が期待されている.本年度は,分泌腺型のアイソフォームであるAQP5に焦点を当て,特にその細胞膜-細胞内貯蔵部位間の輸送機構について調べた. まず,AQP5のC-末端領域の欠損変異体が細胞膜上に存在できず,細胞内に蓄積されるという局在異常を呈することをきっかけに,本領域がAQP5の細胞膜局在に重要であることを明らかにした.その中でも,Met 260,Glu 261およびLeu 262のわずか3アミノ酸からなる領域は,AQP5がゴルジ体から細胞膜への移動課程で,品質管理機構を通過するために重要であり,本領域の変異体はオートファジーによる分解を受けることを見出した. 一方,AQP5の細胞膜輸送には細胞内カルシウム濃度の上昇を伴うシグナル伝達系の重要性が示唆されていたが,この刺激依存的な輸送系には細胞骨格系のアダプタープロテインの一種あるezrinが重要であることを,エズリンのドミナントネガティブ変異体などを用いた生化学的な実験によって見出した.エズリンによる調節は,刺激依存的なAQP5輸送に選択的であり,de novo合成後の無刺激時の細胞膜輸送には影響しなかった. さらに,AQP5の細胞膜輸送の薬理学的な調節についても漢方薬を題材に調べ,気道分泌促進作用を持つことが知られる清肺湯にAQP5の細胞膜輸送促進効果があること,本方剤がシェーグレン症候群患者のIgGによって減少する細胞膜上のAQP5の減少に拮抗作用を持つことなどを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は外分泌腺のAQP5に重点を置いて検討を進めた.当初の計画では,AQP5については気道上皮選択的にAQP5を過剰発現させたトランスジェニックマウスの表現型解析を中心に進める予定であったが,予備検討の段階で,AQP5の機能調節はその総量の増減だけではなく,細胞内の局在変化に依存することが大きいことが判明したため,局在変化の機序を解明することに重点を置いたが,この点については十分な成果が得られたと考えている. トランスジェニックマウスを用いた解析およびAQP5以外のAQP類の新規機能についての検討がやや遅れているが,今年度の研究成果はシェーグレン症候群などの外分泌腺機能異常を伴う疾患の病態生理や,慈潤効果をもつとこが知られる漢方薬の作用機序をかん上げる上で貴重な成績が得られたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
AQP5についてはトランスジェニックマウスに気道疾患を誘発した病態モデル動物の表現型から,AQP5の新たな役割の解明を予定している.AQP5が炎症応答を更新することや細胞死を抑制することなどは,すでに細胞レベルでのin vitroの実験系で明らかにしており,これらの機能を生体レベルで検証することを目的とする. 一方,脳内のアストロサイトに存在するAQP4についても,これが脳内炎症の発生に重要であることを示唆する基礎データを得ており,一部の漢方薬によってこのAQP4の抑制を介して脳内炎症を抑制できる可能性が考えられるため,このことについても検討する予定である.
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