脳内のアストロサイトに存在するアクアポリン-4 (AQP4)は血液脳関門における主要な水の通過路となり,脳脊髄液の生理的な代謝に重要な役割を果たす.しかし,体内の浸透圧バランスが崩れると,AQP4は脳浮腫形成を促進するため,AQP4の阻害は脳浮腫の治療につながることが示唆されている.一方,AQP類は水の輸送のみならず,サイトカイン刺激時の反応すなわち炎症応答を亢進する新機能を持つことが明らかにされつつある.我々は漢方薬の五苓散がAQP4の水チャネル機能を著明に抑制することを見出してきた.本年は特にAQP4による炎症応答への影響を明確にするとともに,本新機能に対する五苓散の作用を調べた. まず,AQP4を過剰発現させた細胞では,TNF-αあるはLPSで誘発したケモカインのmRNA発現がコントロール細胞に比べてより著明となり,AQP4が炎症反応の増悪因子となることがわかった.AQP4の高発現細胞では定常時のMEK/ERKのリン酸化が亢進し,AQP4による炎症応答の亢進はEKR阻害薬により抑制したため,このMEK/ERKが少なくとも一部AQP4による炎症応答の亢進に関わると推定された.また,五苓散はAQPを持たない細胞では少なくともTNF-αで誘発したケモカイン産生に著明な作用を示さないものの,AQP4発現細胞ではAQP4によって亢進された反応を有意に抑制した.さらにこの五苓散によるAQP4の炎症応答亢進の抑制をin vivoの実験系で検証するため,LPSをマウスの脳内に注入して誘発した急性脳炎モデルで調べたが,五苓散はLPSによる脳内のサイトカイン発現および運動機能障害を著明に抑制した.興味深いことに,マウスの腹腔内にLPSを投与して誘発した消化管の炎症は五苓散により抑制されず,本方剤の抗炎症作用がAQP4の存在する脳に選択的であると考えられた.
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