研究課題/領域番号 |
20K07802
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
杉本 研 川崎医科大学, 医学部, 教授 (20437403)
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研究分担者 |
藤本 拓 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (10854284) [辞退]
樂木 宏実 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20252679)
高橋 利匡 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (60807270)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サルコペニア / IL-15 / 運動 / バイオマーカー / 高血糖 |
研究実績の概要 |
サルコペニアは、生物学的寿命と健康寿命短縮と関連し、加齢と慢性疾患がその発症を誘導する全身性疾患と捉えられている。一方、運動(筋収縮)によって骨格筋から調節性に分泌されるマイオカインとしてIL-15が知られ、サルコペニアの進展抑制や治療におけるターゲットとして期待される。我々は以前IL-15による骨格筋糖代謝の賦活を報告し、その分泌機序について研究してきた。本研究は運動によってIL-15が分泌される機序とその意義の解明、IL-15と各受容体の細胞内動態とシグナル伝達の解明、IL-15のバイオマーカーとしての意義の解明を目指す。研究①では、運動によってIL-15が骨格筋に与える効果を検討するために、トレッドミルを用いた動物実験を行った。野生型としてC57B6Jマウス、骨格筋特異的IL-15過剰発現マウス(IL-15mTG)とIL-15ノックアウトマウス(IL-15KO)を用いた。運動刺激に伴いIL-15によって特に速筋優位筋の量調節に関わっていることが示唆された。また高血糖条件におけるIL-15の影響を調べるため、糖尿病モデルラットを用いた実験を行ったところ、糖尿病下での筋収縮刺激による筋量増加にIL-15が関与していること可能性が示された。研究②では、C2C12細胞株を用いてその分化過程におけるIL-15、IL-15Rαの発現変化や細胞内動態を検討し、IL-15の細胞内シグナル調節にはIL-15Rαが重要であり、骨格筋細胞の分化において必須である可能性が示された。以上の結果に関して、2つの論文を報告した(Exp Physiol 2022, J Appl Physiol 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究①:運動に伴う骨格筋におけるIL-15の影響については、運動負荷のない状態ではIL-15mTGで骨格筋量が低値であったが、IL-15KO ではそのような違いはなかった。骨格筋量/体重比はIL-15mTGおよびIL-15KOともに低値であった。運動負荷を行った場合の骨格筋量の変化は遅筋ではみられなかったが、腓腹筋(速筋優位)の重量はIL-15mTGでは運動負荷の有無で違いはなかったが、IL-15KOでは運動負荷ありで運動負荷なしより低値であった。この違いから、IL-15は特に速筋優位筋において運動後の骨格筋量調整に関与していることが示唆され、現在そのメカニズム解析を進めている。 高血糖条件での骨格筋におけるIL-15の影響を、糖尿病モデルであるGKラットを用いて検討した。糖尿病では筋量の減少がみられるが、筋に血流抑制と電気刺激を一定期間加えることにより筋量の増加とともにAMPK-PGC1α軸の亢進がみられ、また筋におけるIL-15の発現増加もみられたことから、糖尿病下での筋収縮刺激による筋量増加にIL-15が関与していることが示唆される。 研究②:C2C12細胞株の分化に伴い、そのマーカーであるMyogeninやMyoDの発現増加と併行してIL-15とIL-15Rαの発現増加が見られた。またIL-15Rαの存在下においてIL-15の局在が細胞質から細胞膜へ変化するとともにIL-15の蛋白発現量の増加がみられた。以上から、IL-15は骨格筋細胞内でとIL-15Rα複合体を形成するという免疫系と同様のシグナル伝達機序を持つとともに、翻訳後修飾に関与する可能性が示唆される。 研究③:臨床研究では一部症例において血中サイトカイン濃度の経時変化を検討したが、現時点でIL-15血中濃度についてはサルコペニア指標(骨格筋量、筋力、歩行速度)との関連は認められていない。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究に関しては、2021年秋からスピードは遅いものの調査を再開しており、サンプルも回収できつつある。基礎研究に関しては、2021年10月に研究分担者を追加したことにより、昨年よりは研究が進捗している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の留学や技術補佐員不足、新型コロナウイルス感染症などの影響により研究の進捗が遅れ、研究費を使用する場面が少なくなっていたが、昨年秋頃より研究分担者の追加や技術補佐員の補充などの研究実施体制が改善したことから、今年度は遅れていた基礎研究と臨床研究を進めることが可能である。基礎研究で使用するマウス飼育費と抗体などの試薬の購入、臨床研究におけるバイオマーカー測定費、日本老年医学会や日本サルコペニア・フレイル学会などの学会発表費用に研究費を充てる予定である。
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