近年、高齢者だけではなく一般集団でもビタミンD不足や欠乏が問題となっている。わが国の調査で、80%以上の女性にビタミンD不足が見られることが報告されている。わが国では2016年8月から、血清25水酸化ビタミンDの測定 が保険収載されたため、骨粗鬆症を有する患者においてビタミンDの状態を判定することが可能になった。ビタミンDは骨カルシウム代謝を改善するのみならず、骨格筋や中枢神経に働き、筋力を増強し、転倒を抑制する効果もあることが複数のランダム 化比較試験で明らかにされている。これらの状況をふまえ、今回われわれは、血清25水酸化ビタミンDを測定し、身体機能、サルコペニア指標との関連を検討する研究を行った。 われわれは、地域在住の高齢者を対象としたコホート研究で、フィールドでの問診、身体計測、身体機能の調査を行い、また採血検体を用いて、対象者の血清25水酸化ビタミンDを測定した。それらの結果を用いて、四肢骨格筋指数(SMI)、握力、歩行速度とビタミンDの関連を検討した。対象は70歳代310名と、90歳代48名である。70歳代では、SMIと握力はそれぞれビタミンDと有意な相関を認め、さらに多変量解析で性別、BMI、血清アルブミンで調整後も、ビタミンDとSMIは独立した関連を認めた。90歳代では、SMIと握力はそれぞれビタミンDと相関が認められたが、多変量解析では、独立した関連は認められなかった。以上の結果から、ビタミンDレベルを維持することは、骨格筋量の維持に寄与する可能性が示された。 ビタミンDは一般的に骨代謝を改善することが知られている。本研究により、ビタミンDは骨のみならず筋にも影響していることが明らかになった。サルコペニアに対しては、未だ有効な介入方法が明らかになっていないが、本研究の結果は、サルコペニアに対してビタミンDを維持することが有効である可能性を示した。
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