致死性の神経変性疾患であるプリオン病は、現時点において有効な治療法や早期診断法は存在しない。近年開発された異常型プリオン蛋白(PrP)試験管内増幅法(RT-QUIC法)はプリオン病罹患者の脳や髄液中に含まれる異常型PrPを検出可能とした高感度アッセイ系である。本研究では、プリオン病の早期診断を目標に、さらに微量の異常型PrPを検出する発展型RT-QUIC法の構築をめざす。大量試料や高濃度試料から微量存在する異常型PrPを濃縮し、RT-QUIC法の感度を上げることで初期症状患者の診断を可能とする。RT-QUIC法は、他成分を多く含む高濃度試料からの微量異常型PrP検出を苦手とする。高濃度試料はQUIC反応を阻害するため、ここでは様々なビーズを用いて異常型PrPを他成分より分離し、その試料(濃縮PrP)を用いたビーズ(B)-QUIC法を構築する。 前年度までに、様々なビーズを用いて最適ビーズ(素材)、反応溶液組成、温度、回転条件等を決定した。また、牛胎児血清FBSにヒトプリオンシードを段階希釈し、B-QUIC法が可能かを検討してきた。今年度は前年度から引き続き、シードを濃縮できる最高血清濃度、最高血清量及び最低シード量を検討した。また、今年度からビーズの代替品としてメタルパウダーについても検討した。段階希釈された脳乳剤は様々な量のFBSに懸濁し、これらビーズ・パウダーとインキュベート後、B-QUIC法に用い、プリオンシード濃縮が可能かを検討した結果、100% FBSでは陽性反応は得られなかったが、かなり濃い濃度のFBSにおいて陽性反応が得られた。このことから血清からのシード濃縮が可能であることが示唆された。今後、プリオン病罹患者、健常者の血液等の体液を用いて異常型プリオン蛋白の濃縮が可能か、また本アッセイが有用であるかを検討する。
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