研究課題/領域番号 |
20K07812
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
安田 宏 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80262129)
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研究分担者 |
山本 博幸 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 教授 (40332910)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / 胆管癌 / ラミニン |
研究実績の概要 |
ラミニンは基底膜を構成する蛋白質のひとつであり、α・β・γの3つのポリペプチド鎖から構成される三量体グリコプロテインである。細胞接着、分化、増殖、遊走に関与している。ラミニン332(以下 Ln-332)はα3鎖、β3鎖、γ2鎖から構成され、上皮細胞の運動や接着の制御を介して上皮構造の維持に働いている。ラミニン332 の構成成分であるラミニンγ2(以下Ln-γ2)単鎖は、様々な消化器癌の先進部分で特異的に発現する。これまで血清Ln-γ2単鎖が肝細胞癌の新しい腫瘍マーカーとして有用であることを明らかにしている。難治癌である胆道癌・膵癌の罹患率は特に高齢者で増加しており、2018年の死亡数は約5万人であり新たなスクリーニング法の確立が急務である。消化器系悪性腫瘍を対象とした予備的検討でLn-γ2は胆道癌や膵癌組織に高頻度で発現しており、予備的検討で血清中Ln-γ2は膵癌患者の約70%で、胆道癌は約60%で陽性を認めた。本研究では①膵臓癌におけるLn-γ2の早期診断や治療効果予測因子としての臨床的有用性、②膵癌はdesmoplasiaと呼ばれる高度の線維化をしばしば伴い、抗癌剤抵抗性の重要な因子であり膵星細胞の関与が想定されている。Ln-γ2の膵星細胞の活性化への関与をin vitroで解析する。③胆道癌はしばしば診断に難渋することがある。胆道閉塞時に内視鏡的経乳頭的ドレナージで採取した胆汁中のLn-γ2の発現を検討し、血清Ln-γ2値測定とともに補助的診断法としての有用性を検討する。胆管癌もしばしば線維化を伴い肝星細胞や癌関連線維芽細胞(CAF)の関与が想定されている。Ln-γ2の膵星細胞の活性化への関与を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①「日本多施設共同コーホート研究」(Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study: J-MICC Study)は、各地で実施される地域住民コーホート研究および医療施設受診者コーホート研究を統合したもので、文科科研費新学術領域研究「コホート・生体試料支援プラットフォーム」は、J-MICCにより既に匿名で経時的に採取された、約40例の膵癌発症、および健常者血清を研究者に供与し、腫瘍マーカーの有効性を検証する事業である。現在、検体供与内定をいただいている。高感度ELISAによるLn-γ2の測定と、既存マーカーであるCEAとCA19-9のアッセイを本学IRBの承認をもって行う。Ln-γ2の早期診断や治療効果予測因子としての臨床的有用性を検討する。 ②ラット初代培養星細胞は培養ディッシュ上で星細胞を培養するとαSMAを発現する活性化筋線維芽様細胞に変化する。一方、IL-6に代表される炎症性サイトカインが発現するi-CAFへの変化は膵癌の進展には特に重要とされている。R3年度の検討でマトリゲル内の三次元培養でαSMA発現が増強していない静止期状態の星細胞培養系を確立した。Ln-γ2単鎖(LAMC2)発現アデノウイルスを作成し、星細胞に感染させると細胞質や上清中に豊富にLn-γ2単鎖が発現することを確認している。これらの系を用いてLn-γ2単鎖の星細胞の活性化への影響の検討を行う。 ③悪性胆道閉塞時に内視鏡的経乳頭的経鼻ドレナージ法により採取した15例の胆汁を用いて、WB法でLn-γ2単鎖の発現を検討すると、約6割で発現を認めた。今後、症例を増やすとともに、胆汁中のエクソソーム分画を抽出し、Ln-γ2単鎖の発現を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
①J-MICC Studyより供与予定の約40例の膵癌発症、および健常者血清検体を高感度ELISA系でアッセイをおこない、既存マーカーであるCEAやCA19-9と性能を対比する。切除胆管癌組織を免疫組織化学的にLn-γ2の発現を検討する。 ②R3年度までの検討で胆汁中のLn-γ2アッセイは胆道系悪性腫瘍の診断の一助となる可能性が明かとなった。胆道癌細胞株TKGおよび培養上清より抽出したエクソソームはLn-γ2を発現していたことから、閉塞性黄疸治療時に内視鏡的経乳頭的経鼻ドレナージ法で採取した胆汁中のLn-γ2のアッセイを行う。更に胆汁中よりエクソソームを抽出する系を確立しLn-γ2発現を検討する。 ③R3年度までの検討でマトリゲル内で三次元ラット星細胞培養系を確立した。またLn-γ2発現アデノウイルスを作成し、膵星細胞細胞質および培養上清中にLn-γ2蛋白を確認した。膵癌微小環境においてはαSMAを発現するmyCAFではなく、IL-6など炎症性サイトカインを発現するiCAFへの形質変換が重要と近年報告されつつある。HA-tagを付加しておりLn-γ2の星細胞への取り込み過程や受容体との共存などの観察が容易となる。これらの系を用いてLn-γ2単鎖による星細胞の活性化の影響を、炎症性サイトカインを中心とした発現遺伝子の変化をqRT-PCRで解析することで検討する。また蛍光イメージングにより細胞内シグナリングを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進行している。COVID-19感染遷延のためPCR関連試薬およびチップなどの消耗品など年度内に業者より納品が困難なものが発生したため、次年度使用が発生している。
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