好中球細胞外トラップ(NETs)は生体防御機構の一つであるが、その過剰な形成は様々な炎症性疾患に関与する。本研究の目的は、臨床病態において血清中に増加したシトルリン化フィブリノゲン(Cit-Fbg)がNETs形成の指標となりうるかを検証することである。 まず、好中球とフィブリノゲンの共培養条件下で、薬剤刺激によりNETsを誘導した。NETs形成の増加に伴って経時的にフィブリノゲンがシトルリン化されることを、酵素免疫測定法を用いて定量的に証明した。次に、菌血症患者血清では、健常人群と比して有意なCit-Fbgの増加を認め(p<0.001)、これは好中球数の変動と一致していた。ゆえにCit-Fbgの生成が好中球に由来するのではないかと推察された。しかし、一般的にNETsマーカーとされるシトルリン化ヒストンの増加は認めなかった。シトルリン化ヒストンは不安定であり保存血清での測定には適さない。そのため、他のNETsマーカーとしてMPO-DNA複合体(MPO-DNA)の検出系を構築した。敗血症患者血清においてCit-FbgとMPO-DNAの増加が確認され、Cit-Fbgの増加はNETsを反映していると考えられた。 肝がん群、消化器がん(胃・食道・大腸)群の患者血清では、Cit-Fbgは健常人群に比して有意に高くなった(p<0.01)。一方で、中にはCit-Fbgの検出感度を下回る検体も多くあった。またがん患者検体では、MPO-DNAの増加は認められなかった。現行法では健常人、がん患者におけるCit-Fbg及びMPO-DNAは検出感度以下である検体が多い。さらに低濃度域での評価を目指し化学発光を用いた測定系を検討中である。 以上から、血清中Cit-Fbgの増加は感染症ではNETsを含めた炎症病態を反映すると考えられたが、がんにおける増加原因についてはさらなる検討が必要である。
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