研究課題
異型不適合輸血(過誤輸血)のみならず頻回輸血、熱傷、体外循環回路(ECMOを含む)の使用により、一部の赤血球は溶血して、遊離したヘモグロビンは腎障害を起こす。このような場合、従来の対応方法は特定生物由来製品のヒトハプトグロビン製剤の投与しかなかった。本研究の最終目標は、溶血による副反応を軽減する臨床応用可能な分子を見つけることである。本年は生体内でヘモグロビンに関与していることが知られているHaptoglobin、Hepcidin、CD163(ヘモグロビンスカベンジャー)の可溶型CD163(以下sCD163)に着目して解析対象とした。赤血球血液製剤はわずかながら溶血しており、上清ヘモグロビン(溶血したヘモグロビン)濃度は製造7日後では25.6 ± 5.4 mg/dLに達する。そこで、頻回に輸血を受けている貧血患者において、その濃度変化が確認された分子は遊離ヘモグロビンの影響を受けているものと推定される(ここで頻回輸血を週1回1単位相当1か月程度継続と定義)。そこで頻回輸血を受けていた(腎癌、卵巣癌、赤芽球勞、MDS、心不全)患者残余検体を対象に、血漿中のHaptoglobin、Hepcidin、sCD163の濃度をELISAにて測定したところ、Haptoglobinの濃度は肝障害や腎障害を持つ患者では低値を示していたが輸血との関連は認められなかった。Hepcidinは測定した患者では輸血とは関連せず、高値を示していた。sCD163は輸血前後で鋭敏に濃度が変化していることが確認された。例えば大腸癌患者では輸血により1,362 ng/mLから862 ng/mLに減少していた。この結果は溶血処理にsCD163が連動していることを示唆している。現在までの解析から、sCD163がもっとも有力な遊離ヘモグロビンと結合する分子であると推定されることから、この分子を中心に解析を進めて行く。
3: やや遅れている
コロナ禍による社会的な事情により、研究材料、試薬などの調達に遅延があった。当初は貧血患者においてsCD163分子のみの解析を行うことにより目的を達することができると想定していたが、貧血病態に関与する他の分子、特にHepcidinについても測定しなければならなかったため、解析に時間がかかった。これについては今年度中にELISAを終えることができた。
現在までの解析から、ヒトハプトグロビン以外ではsCD163がもっとも有力な遊離ヘモグロビンと結合する分子であると推定される。今後はリコンビナントsCD163と人為的に作成した遊離ヘモグロビンとの結合能を解析する。その際に分子結合を解析する方法として、簡便な方法を採用することにより、研究を加速させたい。具体的には免疫沈降法に変えて磁気ビーズを用いて解析する。並行して、内因性のsCD163が実際にどのようにマクロファージから血清中に供給されるかその仕組みを解明する。何らかの刺激で(生理的に)生体内で増加させることが容易であれば、(体外からsCD163せずに)これを治療に応用できることになり、これによって一気に目的が達成できる可能性がでてくる。
試薬の発注納入のおくれによる影響と施設に設置されていた磁気ビーズによる細胞分離用のマグネット機器が使用できないことが判明した。これを次年度購入としたため、前年度にはこれに用いる試薬の購入を行わなかったため、差額が生じた。今年度新たに購入するために使用する。
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